「感染した女性はこれだけ動いていて、感染者がひとりっていうのはおかしいですよ。おそらく体調が悪くても、検査を受けないんだと思います」
チェンマイ在住の日本人は語る。チェンマイの場合、自主的に検査を受けると有料になる。3時間で結果がわかる検査は4500バーツ(約1万5000円)、8時間で判明する検査は3000バーツ(約1万円)。チェンマイの物価を日本に当てはめると約3倍が相場。かなりの負担になる。
「それよりも店に迷惑がかかることや、周囲の目を気にします。チェンマイは地方都市ですから」
と日本人は続ける。
そのあたりは多くのタイ人が指摘する。軍事政権の流れをくむ現在のプラユット政権は、強硬なロックダウンや、感染者情報の開示に容赦はない。それによって、世間への気遣いや店に顔向けできないといった感情が生まれ、感染者が潜伏してしまうという。だから思わぬところで感染がぽっと起きる。実際のタイの感染者はもっと多いはずという。
強権をバックにした厳しい規制が、はたして早くコロナ禍の収束に向かわせるのか。感染を抑え込んだといわれる国のほころびなのか。コロナ禍は政権の後ろ鏡でもある。
■下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(週)、「沖縄の離島旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)。