「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第40回は、感染者が急増するタイでささやかれるうわさの背景について。
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タイは新型コロナウイルスの感染を抑え込んだといわれていた。昨年4月以降、1日の新規感染者は10人以下が続いていた。
ところが昨年12月から、感染者が急増。多い日は1日700人を超えるようになった。
政府はロックダウンに近い規制に踏み切った。学校の休校、バーやカラオケ、マッサージ店などの営業停止、レストランは夜9時までで酒類の提供は禁止などだ。
日本人の感染者も出ている。シーラーチャーで4人、チェンマイで2人……。シーラーチャーのカラオケスナックから広まったといわれ、チェンマイの2人もシーラーチャーで感染したらしい。
シーラーチャーはバンコクの南東。車で1時間半ほど。タイの車産業の一大拠点だ。日本の主だったメーカーの工場が集まっている。
6年ほど前、カラオケスナックのホステスをめぐり、日系企業の一部の社員同士が乱闘騒ぎを起こしたことがあった。企業の頭文字をとってシーラーチャーSM戦争と現地では話題になった。そんなカラオケスナックが、新型コロナウイルスでも舞台になった。
タイ人の間では、「ミャンマー人がウイルスをもち込み、日本人が感染を広めた」といったうわさが流れている。バンコク在住の日本人はこういう。
「タイ人は自分たちが感染源だって思いたくないんでしょうね。タイ人が広めたとなると、なにかと大変ですから」
1月4日、チェンマイでひとりのタイ人女性の感染が発表された。タイでは感染者の立ちまわり店などが実名で公表される。「Warm up Cafe」、「Infinity club Chiangmai」などチェンマイの5店が発表された。店は3日間の閉鎖だが、従業員は14日間の隔離なので、実質、店は14日間休業になる。