映画でもテレビでも、2時間もただ画面の前にいるなんて、耐えられない。現代人の視聴スタイルに変化が表れている。AERA 2021年1月18日号から。
* * *
映画好きだったのに、かつてほど、夢中になれなくなった。
東京都に住む女性(27)が、そんな自分に気づいたのは、4年前だ。米アカデミー賞受賞で話題になったミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」を、休日出勤を終えた土曜の夜に楽しみに観にいったのに、作品に没入できなかったのだ。女性は言う。
「前評判も知っていたし、情景描写もすてきでした。なのに、途中で『まだ終わらないのか』と思った自分がいたんです」
月に1度は訪れていた映画館も今は年に1度に落ち着いた。
似たような声は、他からも聞こえてくる。
「集中力が落ちたように感じています」
そう打ち明けるのは、徳島県に住む女性(26)だ。自宅で映画や動画を観ていても、SNSの通知が気になったり、日常の心配事を思い出したり、内容とは無関係な雑念が頭をよぎる。
「この2~3年は、毎日YouTubeを視聴しています。テンポの良い動画だとあっという間に時間が過ぎる。映画やドラマで長時間ストーリーについていくことに、疲れを感じ始めたような気がします」
■スマホに通知で離脱
映画やドラマがつまらないわけではない。嫌いなわけでもない。この漠然とした「耐えられなさ」はいったいどこから湧き出てくるのか。
「画面の前で座って2時間じっくり見るというスタイルは、廃れつつあります」
そう指摘するのは、若者とメディアの関係を調査する明治大学商学部の藤田結子教授だ。なかでも、SNSが触れるメディアの主軸にある「Z世代」にこの傾向が顕著だという。Z世代とは、1990年代中盤以降に生まれたデジタルネイティブ世代のことを指す。藤田教授は言う。
「20代より下の世代は、テレビも映画もスマホを並行して使いながら見ることが当たり前です。映画館に行くなどのイベント要素がある場合は2時間我慢できますが、日常生活で視聴する場合、手元にスマホなしという状況は少ないといえます」
テレビと違い、スマホにはひっきりなしにさまざまな通知が飛び込んでくる。LINEにインスタグラムにツイッター。つい気が散って、“離脱”しがちになる。都内の学生(22)は言う。
「見ている内容で気になったことを調べたくなったり、それに連動して思いついたことをやりたくなって中断したりします」
この傾向は若者に限ったことではないという。電通メディアイノベーションラボ主任研究員の天野彬さんは言う。
「スマホを利用する現代人は、集中力の持続スパンがどんどん短くなってきています。アイトラッキング調査をした際にも、SNSで一つの投稿に2秒ほどしか注意を向けないユーザーを何度も観察しました」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2021年1月18日号より抜粋
【「鬼滅」ブームの裏で進む倍速・ながら見・短尺化 長編ヒットの条件とは】へ続く