「おや?」と思って立ち止まる。そしてはじまる旅の迷路――。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界を歩き、食べ、見て、乗って悩む謎解き連載「旅をせんとや生まれけむ」。第41回は、バングラデシュの難民キャンプについて。
* * *
「国際的な援助団体とバングラデシュ政府との主導権争いってことでしょうね」
現地ではそんな話が交わされている。
バングラデシュ南部に広がる難民キャンプ。ミャンマーのラカイン州での戦乱を逃れたロヒンギャ難民が収容されている。最も大きいクトゥパロンキャンプは100万人規模。世界最大の難民キャンプである。
このキャンプで、バングラデシュ政府による移送がはじまった。現地の報道では、昨年11月に1645人、12月に1804人。最終的には10万人を移す計画だという。
移送先はベンガル湾のバシャンチャールという無人島。バングラデシュ第2の都市、チッタゴンの沖、40キロほどのところにある。
バングラデシュ政府は軍を動員して、コンクリートづくりの立派な施設を建設。食料は当面、軍が搬送するという。現在のキャンプは竹を編んだ建物が多い。環境はずいぶんよくなる。
しかし今回の移送を主導したバングラデシュ政府と、国際援助団体の間には不協和音が生まれている。現在の難民キャンプは、国際援助組織の存在感が強い。その下に、国際援助組織に雇われたバングラデシュのNGOやスタッフがいる。100万人規模のキャンプだから、その数も膨大だ。彼らの仕事が減っていくことへの反発がある。移送先のキャンプは、バングラデシュ政府が雇ったバングラデシュのNGOやスタッフが受け持つ。国際援助団体は入っていない。
双方にいい分はあるが、雇われるスタッフの側からみれば、難民ビジネスの利権のとりあいにも映る。
そのなかで右往左往するのは難民たちだ。クトゥパロンキャンプで働くバングラデシュ人のNGOスタッフによると、難民たちの反応はさまざまだという。