ヴェネチアは海上国家だから当然スペインやトルコの標的になる。トルコと海上で戦争をしながら、一方でその間もトルコ大使館を置いて外交を続けるしたたかさを持ち続けている。
著者の塩野さんは、日本のこれから生きる道はヴェネチア的なものかもしれないと言う。偶然、私が四巻目にかかった時、NHKのテレビ番組に塩野さんが出演した。
私はヴェネチアの魅力のとりこになって数回、訪れている。最初、空港から船で入った時は、夜だった。殺風景な何もない海上が突然、きらびやかな不夜城と化した。その頽廃的な美しさ、ひたひたと波が戸口まで迫り、いつか水没する危機をはらんでいる。
交通は橋を渡って歩くか、水路を船で行くしか方法はない。四巻を、四日間で読みおえた。
※週刊朝日 2021年2月5日号
■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数