AERA 2021年2月1日号より
AERA 2021年2月1日号より

「AIがなかなか近づけないと感じるのは、人間が五感から得る感覚と、人間ならではの感性です。アートに接することで五感を刺激し、そこから何かを感じ取ることは、AIと共に生きていく時代に必要な、人間ならではのクリエイティビティーやコミュニケーション能力を磨くことになるでしょう」(保科さん)

 同社では、2018年に「アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京」を社内に設置。雑多なストリートを思わせる派手なフロアには、コムデギャルソンなどともコラボするアーティスト、大山エンリコイサムさんらの作品が並び、見る者の五感を刺激している。

 STEAM教育の広がりでこれまで以上に注目されている「アート」がいま、ビジネスの現場でも求められている。

凝り固まった考えが阻む

 アートは美術的な意味合いだけでなく、個々の創造性を育むことにつながる。STEAM教育は、英数国理社のいわゆる主要教科などと芸術やスポーツの掛け合わせでものごとを考え、つくりだす。この思考力こそがビジネスで強みになる。

「手を描いてみてください」

 そう言って渡されたのは、鉛筆などの画材だけ。真っ白な紙に向かうのは、NTTデータの技術者ら12人。ふだんは工学的でさまざまなデータを駆使する技術のプロたちが自分の手をまじまじと見つめて描きあげるが、どうものっぺりとしてしまう。

「多くの人は『手はだいだい色で、消しゴムは消すためにある』と思い込んでいます。でも、光の当たり方で明暗があったり、消しゴムで描くこともできる。固定観念を取り払い、当たり前を疑うことの難しさを体感してもらうことが狙いでした」

 そう振り返るのは、同社公共・社会基盤事業推進部の古澤暁子さんだ。環境や教育などのSDGsの重要性が問われる現代では、企業の売り上げやコスト削減という目先の数字だけでなく、将来をどう描くかが試される。凝り固まった「当たり前」の考えは行く手を阻むこともある。そこで取り入れたのが「アート思考」だ。こう続ける。

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