多発性骨髄腫は血液がんの一つで、発症の平均年齢は66歳と高齢者が中心だ。平均生存期間が3年という病気だが、分子標的薬と抗がん剤との併用療法によって、余命が格段に延びた。さらに、新薬の開発も盛んで、今後に期待が持たれている。
東京都在住の主婦、島田直美さん(仮名・68歳)は、2011年の年末あたりから腰が痛むようになった。年明けに近くの整形外科でX線検査や血液検査を受けたところ、異常が見られたため、紹介先の埼玉医科大学総合医療センター血液内科を受診。X線検査、血液検査、骨髄検査などの結果、3期(病気の広がりを示すステージで、もっとも進行した状態)の多発性骨髄腫と診断された。
多発性骨髄腫は、白血球の仲間の一つで、外敵である細菌やウイルスなどの異物を攻撃するタンパク(抗体)を作り出す「形質細胞」ががん化したものだ。骨髄腫細胞は「Mタンパク」という役に立たない抗体を作るため、血液検査でMタンパクの量などを調べることで診断がつく。
骨髄腫細胞は無秩序に増え、正常な血液細胞が作られるのを阻害したり、骨代謝(古い骨が壊れ、新しい骨ができる)に影響を与えたりする。その結果、貧血や感染、骨粗鬆症、腎障害などが起こる。島田さんを診察した同科教授の木崎昌弘医師はこう話す。
「この病気は健康診断の血液検査を機にわかるケースも多いのですが、腰痛や骨の痛みを最初の症状として、整形外科で見つかることも珍しくありません」
注目される分子標的薬
島田さんは病気がわかった段階ですぐに入院。初期治療である「寛解(かんかい)導入療法」として、分子標的薬のボルテゾミブ(商品名ベルケイド)、抗がん剤のメルファラン(アルケラン)、ステロイド薬のブレドニゾロン(ブレドニンなど)の3剤を併用する「VMP療法」を受けた。分子標的薬はがん細胞だけにある特異的な分子に作用する薬で、さまざまながんの治療薬として注目されている。
※週刊朝日 2013年4月19日号