そしていよいよ、元祖鮭料理割烹「金大亭」の本流「石狩鍋」の登場である。先ずダシ汁を張った大きな土鍋と大皿に盛った具が運ばれてきた。ダシは鮭の粗と昆布でとり、そこに味噌を溶く。それを卓上ガスコンロの火にかけ、煮立ったら鮭の身と粗、地元の木綿豆腐、キャベツ、タマネギ、シイタケ、長ネギを入れ、全体に火が通ったら鮭の身が固くなる前にシュンギクを入れ、仕上げに山椒の粉を振ってから、イクラを表面に散らして出来上りである。

 その石狩鍋の出来上りの美しいこと。汁の淡い琥珀色に豆腐と長ネギの白、鮭の身の緋色や淡いピンク、点々としたイクラの赤、そこへシュンギクの緑が加わって、その色彩バランスのすばらしさに目も冴えた。

 そして心ときめかせて元祖石狩鍋をいただく。

こいずみ・たけお 1943年、福島県生まれ。東京農大名誉教授で、専攻は醸造学、発酵学。世界各地の辺境を訪れ、“味覚人飛行物体”の異名をとる文筆家。美味、珍味、不味への飽くなき探究心をいかし、『くさいはうまい』など著書多数。

週刊朝日  2021年2月20日号より抜粋