国内外から批判を浴びた森喜朗元首相の失言問題について、ジャーナリストの田原総一朗氏は忸怩たる思いがあるという。しかし、同時に日本に対する国際社会の認識を打ち破るまたとないチャンスだとも訴える。
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森喜朗元首相の「女性がたくさん入っている理事会の会議は時間がかかります」という発言が、世界中から強い批判を浴びている。
森氏は東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長で、2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)臨時評議員会でこの発言をしたのだが、なぜ批判を浴びるとわかっているはずの発言をしたのか。
極めてわかりやすい女性差別発言である。この発言が飛び出したとき、JOCの評議員ら出席者たちからは笑いが起きただけで、批判の声はまったく出なかったようだ。五輪関係者や自民党の政治家たちとの、公開されることのない会合などでは、森氏はこうした発言を繰り返していて、誰もが笑うだけで批判する人物はいなかったのではないか。
実は、森氏が首相になったのは、小渕恵三首相(当時)が脳梗塞で倒れ、後継者がまったく定まっておらず、青木幹雄、野中広務、村上正邦、亀井静香各氏ら当時の党幹部が、急きょ、当時幹事長であった森氏を後継としたからである。後に自民党の両院議員総会が開かれて、森総裁が承認されたのだが、野党もマスメディアも「密室会議で選ばれた首相」として非難の的となった。
森氏の言動には必ず非難が殺到した。決定的だったのは2001年2月10日に、宇和島水産高校の実習船「えひめ丸」がハワイ沖で、米国の原子力潜水艦に衝突され、高校生4人を含む9人が死亡する事故が起きたときのことだった。このとき、マスメディアは「森首相が事故の後もゴルフをしていた」と強烈に非難した。この出来事で支持率が10%を切り、森氏は首相を辞めざるを得なくなった。
だから、森氏はマスメディアにも社会の常識にも反発心を抱いているのだが、それにしても今回の発言はとんでもない女性差別であり、五輪のあり方を裏切るものだ。