KADOKAWA MF文庫J編集部副編集長で、リゼロを担当する池本昌仁さんは、その背景を「なろう系の世界観は、平成・令和の時代劇なんです」と分析する。

「フィクションって、最初から全部説明するのはむちゃくちゃ難しいから何らかのフォーマットが必要。たとえば時代劇は多くの人が『お上がいて、岡っ引きがいて』みたいな設定を把握しているから成立する。ゲームの世界ももう40年近く続いているので、みんながルールを知っているんです」

 池本さんはさらに、転生ものが広く受け入れられるのは、そこにリアリティーが加わるからだ、とみる。

「ファンタジーの世界に、現実世界の人が行くことで、フィクションにリアリティーを持たせることができる。ものすごく優れたシステムになっている」

 池本さんがいうリアリティーの一つが、異世界に転生した主人公が、必ずしも順風満帆でバリバリ大活躍するわけではない、という点だ。

■「何も起きない」と諦め

 水や火などを使いこなす特殊能力を持つ人々の世界なのに、主人公にはなんの能力もなくバイトで生計を立てる『この素晴らしい世界に祝福を!』。過去に戻る力だけは持つが、そのためには自分が死ななければならない『リゼロ』。いじめを機にひきこもりになった主人公が、異世界でもいじめのトラウマに悩まされる『無職転生』……。せっかく転生しても、主人公が現世同様の苦労を強いられるストーリーが、読者の共感を呼ぶ。

 なろう系小説も手がける大手出版社の書籍編集者は、「転生後の世界でも厳しい現実が待っているというストーリー展開がこれほどまで受け入れられることに、日本の社会の空気感を感じる」と話す。

「既存の小説は、少年少女が大冒険するとか、夢のある作品じゃなきゃだめだという思い込みがあった。でも、なろう系小説は、商業的な小説家ではない人たちが、人生をそのまま反映させている。異世界というフィクションの中であっても『自分の生活は5年後、10年後も変わらない、すごいことなんて何も起きない』という諦めにも近い価値観が色濃く表れている」

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