──課題は何でしょうか。
iPS細胞を使った病態解明や創薬をより促進するためには、研究者の層を厚くすることが重要です。日本の生命科学研究は、医学部出身の医師(MD)研究者と、理学部など医学部以外出身のPhD研究者が担っています。iPS細胞を使った病態解明や創薬は、患者さんからの検体採取が必要で、また治療に直結することから、臨床系の研究室においてMD研究者が中心となって行われています。しかし、MD研究者は大学院や海外留学等でiPS細胞技術を学んでも、その後は病院勤務に戻り、研究からは離れることが多いのが現状です。MD研究者が研究を継続できる、そして臨床系研究室においてもPhD研究者が活躍できる環境整備が重要です。
──将来、がんや事故で臓器が損傷してもiPS細胞でつくったクローン臓器の移植が可能になるのでしょうか?
現在、臨床試験が進んでいるプロジェクトでは、iPS細胞から網膜、神経、心筋などの細胞をつくって移植に使われています。これらに加えて、立体的な組織や、さらには複数の細胞が立体構造をとったオルガノイド(ミニ臓器)をつくる研究が進行しています。今後は、これらの3次元組織を移植する再生医療も行われると期待しています。さらには、iPS細胞から臓器そのものをつくる研究も進んでおり、10年後、20年後には、iPS細胞を利用した臓器移植も、サイエンスフィクション(SF)だけの話ではなくなっているかもしれません。
──クローン臓器の誕生で「不老不死」に近いような時代は来ますか?
私たち自身は、不老不死を目指した研究は行っていません。私たちはiPS細胞技術によって、「健康寿命」を延ばしたいと考えています。現在、健康寿命は、平均寿命よりも10年程度短いというデータがあります。この人生最後の10年間は介護や看護が必要となっています。健康寿命を1カ月でも1年でも延ばしたいという思いで研究を進めています。