新型コロナウイルス対策への提言を積極的に行っている山中伸弥・京都大学iPS細胞研究所(CiRA)所長。人類はコロナを克服できるのか? そしてノーベル賞を受賞したiPS細胞の研究で人生100年時代の健康寿命はどこまで延びるのか? 山中所長に聞いた。
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──CiRAは新型コロナウイルスの研究もされているそうですね。
コロナは未曽有のパンデミックを引き起こしています。日本でも、1月上旬に2回目の緊急事態宣言が出されました。飲食店をはじめ多くの国民の努力で感染者は減少傾向にありますが、医療のひっ迫は続いています。ワクチン接種が日本でも始まる予定ですが、収束にはまだまだ時間がかかると思われます。このような人類共通の脅威に対して、CiRAでは昨年の4月ごろからさまざまな機関と協力して新型コロナウイルスに関する研究を進めています。
──研究の詳細は?
新型コロナウイルスが原因の肺炎の病状等を研究したくても、人の肺の細胞はなかなか手に入りません。多くの研究者が、サルの腎臓に由来するVero細胞を用いて感染実験を行っています。iPS細胞を用いると、ヒトの肺や心臓の細胞をつくり出すことができます。京都大学医学部附属病院や国立感染症研究所の研究者と協力し、iPS細胞由来の肺組織に新型コロナウイルスを感染させ、病態解明や創薬の研究を進めています。
──病態解明は進んでいますか?
CiRAと京都大学iPS細胞研究財団では、りんくう総合医療センターや京大病院の協力のもと、新型コロナウイルス感染でさまざまな症状(無症状、軽症、中等症、重症)を示した後に回復した方々の血液からiPS細胞を樹立しています。今後、希望する国内外の研究者に配布する予定で、さらに京大病院、大阪市立大学、大阪府などの自治体と協力し、疫学調査や、抗体やT細胞活性といった免疫反応の研究も進めています。新型コロナの収束に少しでも貢献できればと考えています。