共同養育支援を行う一般社団法人「りむすび」のしばはし聡子代表は、「女性の相談者は以前は『元夫に子どもを会わせたくないが取り決めで会わせなくてはならないから』という方が多かった。ただ、ここ1年は共同養育を希望して相談される方が増えています」と変化を指摘する。
「『共同養育』という言葉が普及し始めて、そんな方法で離婚することができるんだと気付いた層が増えた。夫のことは嫌いだけど子どもと父親を引き離したいわけではなく、育児分担をしたい。仕事もしたいしキャリアも積みたい、という女性たちに共同養育という価値観がマッチしたという印象を受けます。安易に離婚に進みやすくなるのならそれは懸念しますが。」と話す。自身も2015年に離婚後、共同養育を実践中だ。
共同養育は、子育てに関わり続けたい別居親や、両親からの愛情を感じながら成長し続けられるなど、子どもにとってのプラス面が多く指摘されるが、シングルマザーやファーザー(同居親)にとっても利点は多いという。
「何よりワンオペ育児で疲弊することから逃れることができる。自分自身が疲弊しないことで子どもにやさしくできるし、責任分担もできる。元夫や妻の養育費を払うモチベーションも当然上がる。そして自分にもしものことがあった時に命に代えてでも子どもを守ってくれる人がいるというのは大切です」
海外では共同養育や共同親権を採用している国は多いが、日本ではなかなか認識自体が大きく広がらない。その背景には、現行の単独親権制度をバックにした「離婚すると子どもはひとりで育てるもの」という意識が根強く、行政サポートも「ひとり親支援」ばかりであることや、元夫婦間の葛藤を解消し、親同士としてかかわる関係性をつくっていく支援が非常に少ないこと等があると、しばはしさんは指摘する。
今後は「ふたり親支援」という共同養育の視点を持って対応できる体制を行政で築き、国も発信していくこと、葛藤を下げる作業から行えるような協議離婚の制度を作っていくこと等が求められているという。
「原則共同親権とすることで二人で育てる基盤が広がると思いますが、今でもできることとして共同養育を進めていくことが必要だと思います。元夫婦として、親同士として、育児というチームをまた他人として築いていくという発想にそれぞれが変わっていくことが最終的に子どものためになり、自分の時間の確保になる。一方で離婚したら子どもに会わなくていいっていうお父さんがいたとしたら、離婚をしてもきちんと子育てをしなくちゃいけないんだよ、という自覚にもつながるので、離婚をしても共同養育というのがあたり前のように行われていくといいなと思います」
子どもの成長にとって望ましい離婚後の親子、元夫婦のあり方とは何か、幅広い議論が求められている。
◆離婚した親子を取り巻く現状
日本のひとり親世帯の相対的貧困率は5割近くにのぼる(OECD、2016年)。厚生労働省の2016年度調査によると、養育費を受け取っている母子世帯は全体の4分の1以下である一方、別居する親と定期的に面会しているのは母子世帯で29.8%、父子世帯で45.5%に過ぎない。昨年法務省が公表した資料によると、欧州、アジアなど調査した24カ国のうち22カ国が共同親権を採用。日本と同様に単独親権のみの国はインドとトルコだけだったが、日本への共同親権導入に関してはDV被害者保護の観点等から慎重論も根強い。(藤岡敦子)