「リスクがないわけではありません。NKT細胞が強力な抗腫瘍効果を持っているがゆえに、サイトカインを大量に出しすぎ、病気を引き起こすことを危惧しています。また、もとは他人の細胞ですから、患者さんを異物として認識し正常なところを攻撃しないかどうかも調べていきます」(同)
治験の期間は22年までの2年間。1人につき約1カ月の治療期間で、患者の状態を注意深く診つつ最大3回投与する。これから2、3例目をおこない、合計で9~18例の実施を予定している。
「22年以降については結果次第になるでしょう。結果が極めて良好であれば、再生医療の早期承認を目指せる可能性があります。加えて、民間企業主導で承認に必要な治験がおこなわれると思います。私たちアカデミアの研究者はNKT細胞単独治療に加えて、どのような治療法を併用すればこの再生医療の有効性が上げられるのか、研究を進めて情報を提供していきたいです」(同)
本橋医師の見立てでは、「今回の医師主導治験で2年程度、次の治験として対象症例数を増やした第2相試験を準備して終えるのに3~4年はかかるため、実用化には最低でも5、6年はかかる」と言う。
「信頼性を高めるため管理を厳しくすればするほどコストがかかります。リスクとベネフィットのバランスに加え、社会情勢なども影響します。すべての面で日本は慎重に判断する傾向があり、安全性の面ではとても良いことだと思っていますが、それが今後どう変わっていくかで承認までの道のりも大きく変化していくでしょう」(同)
NKT細胞を使った治療は、ほかのがん治療にも応用が期待できるのだろうか。
「NKT細胞は比較的よく反応するのでポテンシャルはありますが、臓器によってふるまいが違うので、それぞれのがんの特徴をよく理解し、見極めないといけないと考えています。患者さんの治癒を目指すのはもちろんですが、まず基礎データを集め、それを次に生かしていくことが私たちの使命です」(同)
(小久保よしの)
※週刊朝日 2021年2月26日号より抜粋