AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
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「在宅医という存在を知り、延命治療を断るために日本尊厳死協会にも入っていた私が、その時点で考えられるシナリオを書きました。自分が『こういうふうに死ねたらいいな』という思いを込めて作った映画です」
そう話すのは、「痛くない死に方」でメガホンを取った高橋伴明監督(71)だ。
プロデューサーから在宅医療のスペシャリストである長尾和宏医師の著書『痛い在宅医』を渡され、映画化を打診された。
「(在宅医療の現実を綴(つづ)った)この本だけだと映画にしづらい。どうすればいいかと考えていたら、書きたいことが見えてきた。宇崎竜童さん演じる末期がん患者の生き方と、映画の王道ですが、主人公が本格的な在宅医として成長していく話にしようと。口で説明するよりシナリオにした方が伝えやすいと、1週間くらいで書きあげました」
在宅医として新たにキャリアをスタートさせた河田(柄本佑)だが、厳しい現実の中で自分の中に矛盾や葛藤を抱えて過ごしていた。そんな時、末期の肺がん患者・大貫(下元史朗)の担当になる。娘の智美(坂井真紀)が父のために“痛くない在宅医”を選択したのだが、結局、大貫は苦しんだ末に死んでしまう。
自分を責める智美の言葉に、河田はたまらず在宅医の先輩・長野(奥田瑛二)に相談する。長野は肺がんより肺気腫を疑うべきだったと指摘。河田は智美に心からわび、長野のもとで在宅医のあるべき姿を模索するのだった。2年後、河田は末期の肝臓がん患者の本多(宇崎竜童)を担当することに……。
チームとして機能する医師と看護師の結束力、医療チームと患者本人、家族との円滑なコミュニケーション。本多のケアを通して、在宅医療のあり方を考えさせる。
また、「死」がテーマであっても映画はユーモアを忘れない。スパイスとなっているのが、本多がしたためる川柳だ。
「死を扱う映画だからといって、どんよりするのもイヤだった。ふと思いついたのが川柳でした。これなら医療の現場で実際に見たことにも触れられるし、本多の人となりを知ってもらえるなと」