だとすると、年金額は「ジワジワ」に加えて「ダラダラ」と長く影響を受けることになる。使われる賃金変動率が2~4年度前の平均であることを思い出してほしい。21年度の数字は「23~25年度」で使われる、22年度のそれは「24~26年度」だ。
今回の改定でわかるとおり、現役の賃金がマイナスなら、たとえ物価が上がっても年金額は下がる。コロナ禍のマイナス影響が長引くほど、年金額は名目で下がり続ける可能性がある。
中長期的にはどうか。
仮にマイナス改定が続くと、マクロ経済スライドは発動されず、その年の抑制率は繰り越しとなる。繰り越し分がたまるほど、年金財政の悪化が進むが、専門家の“眼”は、すでにマクロ経済スライドのさらなる適用強化に向いている。
「(抑制率を引くと)マイナスになる場合も実施する、いわゆる『フル適用』にするべきです。賃金や物価がプラスでどんどん上がっていくとは考えにくく、現状でマイナス改定を避けていると、将来世代の支給水準をさらに引き下げることになってしまいます」(先の堀江主席研究員)
中嶋上席研究員は、キャリーオーバー制の危うさに警鐘を鳴らす。
「例えば、消費税が3%上がるようなことがあるとしましょう。当然、物価も上がります。そのとき、繰り越し分が積み上がっているとドンと一気に適用され、物価が3%程度上がっているのに、年金額は据え置きなどということもあり得ます」
それこそ高齢者の生活への直撃だ。そうならないためにも、毎年、少しずつ目減りするほうが影響が和らぐという。
短期的には現役の賃金低下の影響で下がり、長期的にはマクロ経済スライドの仕組みで目減りしていく。そんな年金の姿が見てとれるが、「朗報」があることも付け加えておこう。60歳以降の再雇用など高齢者の雇用が進んでいることなどで、年金の被保険者数は減るどころか増えているのだ。こちらはマクロ経済スライドの抑制率を小さくしてくれる要因になる。
高年齢者雇用安定法の改正で60代後半の雇用も整備が進むとみられるから、この傾向はしばらく続くかもしれない。「長く働く」ことが、高齢者個人の生活のみならず全体の年金額を守ることにもつながりそうなのだ。(本誌・首藤由之)
※週刊朝日 2021年3月5日号