「年金財政の悪化を大目に見たということで、高齢者に配慮した特例だったと言えるでしょう。でも、たまにしか起こらないと思っていたことが常態化してしまったのですから、たまったものではありません。もう『おまけ』は許さないということで、改正がなされました」(同)
ここまで述べた、経済状況(賃金、物価)の変化に応じた改定ルール(以下、「本来の改定」)に加えて、年金にはもう一つ、支給抑制の仕組みがある。年金財政の健全化のために04年度に始まった「マクロ経済スライド」だ。
現役世代(被保険者数)が減る度合いと長寿化が進行する度合いから抑制率(「スライド調整率」と言う)を決め、年金額を抑えていく。本来の改定がなされた後、さらにそこから差し引く決まりだ。
ただし、こちらにも特例がある。抑制率を差し引いて年金額の伸びがマイナスになる場合は、改定はゼロまでにとどめる。また、本来の改定がマイナスの場合は、適用そのものがなくなる。これもまた高齢者への配慮だ。
しかし、マクロ経済スライドもデフレ経済に翻弄された。多くの年で本来の改定がプラスにならないことなどで、これまでに発動されたのはわずか3回にとどまる。
「さすがに、このままでは……」ということで、18年からルールが変わった。特例について、適用されなかった分の抑制率は翌年度以降に繰り越し(キャリーオーバー)されることになった。ちなみに、21年度の抑制率はマイナス0.1%だったが、本来の改定がマイナスになったため適用が見送られ、キャリーオーバーされる。
あれこれ策を打つものの、経済状況と高齢者への配慮で作った特例に阻まれ、支給抑制が進まなかったことがおわかりいただけただろうか。だからこそ、新ルールで年金額が下がる今回の改定は意義深いとみられている。
みずほ総研の堀江奈保子主席研究員が、
「0.1%とはいえ引き下げることができたのは、長期的な年金財政の安定につながります。年金の持続可能性や将来世代のことを考えても、ここは受給者には我慢していただくしかありません」