「16年の法改正で決まったルール変更です。このとき、野党は『年金カット法案』と言って政府を攻めました」(中嶋上席研究員)

 物価がプラスなら変更前でも年金は「目減り」する。だが、新ルールのほうがその度合いが大きい。受給者に、より厳しい改正だ。

 支給抑制が必要なのは、このまま進むと、将来世代の年金が十分確保できない恐れがあるからだ。

「年金財政の収入は保険料で、その保険料を左右するのは現役の賃金上昇率です。一方、年金財政の支出を左右するのは年金額の改定率。それが賃金上昇率より高くなると、年金財政が悪化してしまいます」(同)

 実際、高齢化で年金財政は悪化し続けてきた。支給抑制が一向に進まなかったからだ。ここ20年余りの公的年金を振り返ると、支給抑制をめざす動きが次々に打ち砕かれてきた「歴史」だったことがわかる。

 00年度から3年間、年金額が据え置かれたことがあった。金融危機などで経済が長期停滞し、物価が下がり続けるデフレ現象が顕在化した時代だ。本来ならば、物価下落に伴って年金額も下げなければならなかったのに、政府は受給者の反発を恐れてできなかった。

 並行するように、00年と04年に年金額を決めるルールが整備されていく。物価と賃金の状況で自動的に改定額が決まる仕組みができあがっていった。

 まず、年金をもらい始めるとき(「新規裁定」と言う)と、もらい始めた後(「既裁定」)で年金額を決める基準を分けた。新規裁定は賃金を基準にし、既裁定は物価を基準に決めるのだ。このころまでは賃金の伸びが物価の伸びを上回ることが多く、賃金ほどには年金額が伸びないようにしておけば、年金財政は改善するとみられていた。

 ところが皮肉なことにルール決定以降、伸び率で賃金は物価を追い越せなくなった。05年度からは、ほとんどの年で賃金は物価を下回った。

 実は、今回引き下げとなるルール改正を招いた引き金は、賃金がマイナスで物価がその水準までは下がらない場合の「特例」にあった。これまでは年金額をルールどおりには決めないものの、賃金が下がるほどまでは下げないとしていた。

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