黒川博行・作家 (c)朝日新聞社
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※写真はイメージです
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 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。今回は、株について。

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 今朝(16日)の新聞に、15日の日経平均株価の終値が1990年8月以来、約30年6カ月ぶりの3万円超えになった、という記事があった。15日公表の国内総生産(GDP)が市場の事前予想より良く、コロナ禍からの経済回復への期待が高まったという(ほんまかい)。

 理由はともかく、株価があがったのは確かだから、わたしはほぼ一年ぶりにネット証券にアクセスして保有株価ボードを見た。総残高は大して増えていない。保有する七銘柄のうち、三つはマイナスのままだ。それはそうだろう、2008年のリーマンショック以前に買った株を売りもせずにしつこく持ちつづけているのだから。

 わたしの株歴は長い。もう四十年になる。

 公立高校の美術教師をしていた三十すぎのころ、同僚の音楽の教師が株をしていて、先週はいくら勝った、今月はいくら儲(もう)けた、とかいうものだから、博打(ばくち)打ちのわたしとしては座して見ているわけにはいかない。北浜の地場証券会社に口座を作り、少ない預金をおろして勝負をはじめたら、勝っても負けても麻雀や競馬より額が大きいからけっこうおもしろかった。

 わたしは三十八歳で教師を辞め、作家専業になった。収入が激減して株はみんな売り払い、よめはんに借金までする事態に陥ったが、二年後に月刊小説誌の連載をはじめて原稿料が入ると、懲りずにまた株をはじめた。そのころ日本経済はバブルの絶頂期で、保有株のすべてがバカみたいにあがり、ウハウハ状態になった。わたしは毎月の成績をノートにつけ、それがプラス五百万円になったときにバブルが崩壊した。あれよあれよとわたしの株もさがりつづけてプラスの五百万円は消滅し、チャラになったところでわたしの株熱も冷めた。以来ボードを見ることはなく、博打といえるものは麻雀とカジノだけになったのだが……。

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