漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「書けないッ!?」(テレビ朝日系 土曜23:30~)をウォッチした。
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売れない脚本家・吉丸圭佑(生田斗真)が、ある日突然ゴールデンタイムに放送される連続ドラマのメインライターに。
元々決まっていた有名脚本家がケガで降板。ストーリーはおろか、テーマ、タイトルすらまっさら状態。決定しているのは主演の人気俳優・八神隼人(岡田将生)だけだ。
「明日までに刑事ドラマでストーリー案だけ書いてくれるー?」と、ムチャ振りプロデューサー・東海林(北村有起哉)。
脳みそふり絞ってプロット提出すれば、主演俳優様が「刑事はやりたくない」ってことで、「学園ドラマを明日までに」。こんな地獄あるんかーい。
ありそうだ。本作の脚本家は福田靖氏。彼の代表作に木村拓哉主演の「HERO」シリーズがあるけれど、実は「HERO」、そもそも脚本をまかされていた新人作家が1話で失踪(という風の噂[うわさ])。急きょ福田さんを含め3人の脚本家をピンチヒッターとして招集、非常に切羽詰まったスケジュールだった(という風の風の噂)。
ゆえに本作に出てくるとんでもエピソードが、やたらリアルに迫ってくる。吉丸の執筆スタイルが口述筆記っていうのも福田さんと同じだし。
「いいから2日で本にしてくれ」とかあるある。プロデューサーが脚本家には強めに当たるのに、俳優にはめっちゃ腰低いの、あるある。
主演俳優がいきなり「俺の役、教師だけどB型の血液しか飲まない吸血鬼にして」って提案、あるある、ある?
迫る期限、真っ白な脚本。追い詰められていく吉丸の前に出現する謎のスキンヘッド(浜野謙太)。
「このドラマ、絶対ハズすぞ」と、悪魔のささやきを繰り返す不気味な男。
やばい〆切りを抱えた者は誰もが一度は見たことのある、あの伝説のツルツル男である(嘘)。
パニックになった吉丸は思わず失禁する。そう、たとえクソドラマだって、血と汗と涙と失禁で作られてるって忘れないよ。
「富豪教師Q」の第1話オンエアを見た吉丸の高揚感に、脚本家はみんな共感するだろう。
「俺の書いたセリフを(俳優名)がしゃべってる! あっと言う間の夢のような1時間だ」
そして翌日の視聴率を聞いた時の絶望感もきっと……。新ドラマ「富豪教師Q」の視聴率2.8%。
私はテレビ画面に向かってそっと手を合わせた。
カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など
※週刊朝日 2021年3月5日号