「森氏のように、“わきまえている”女性の意見だけを求めるということは、女性を入れて化学反応を起こし新しいものを生もうという認識はなく、今まで通りに無理や無駄なく進めていきたいという感覚がある」
経営課題の解決やメリットのためではなく、女性を入れてあげなきゃいけないんでしょうという話でしかダイバーシティーを捉えておらず、マジョリティー側の上から目線も感じるという。
「会社や経団連の役員にも見られる恐るべき同質性が企業低迷の一因になっている。女性をはじめとする多様な視点を取り入れ、長期的に企業価値を高めていくための『ダイバーシティー・ポジティブ』を目指す覚悟が重要です」(大橋さん)
■答え方を練習しておく
現在いくつかの企業の社外取締役を務めている50代女性は、取締役になるための面接を受けるときは、必ず確認するようにしていることがある。
「女性だからいてほしいのであれば、他の人をあたってください。意見を求められているのであれば、ぜひご一緒に」
わきまえずに声を上げるために、権利意識を持つことも大事だと福田さんは言う。
「性別に関係なく活躍すること、大切にされることは誰もが持っている当たり前の権利。そう思うことが背中を押してくれる」
実際に使える技として福田さんが心がけているのは、差別的な発言をされたときにどう答えるかを、表情を含めて練習しておくこと。練習しておかないといざという時に曖昧に笑って流してしまい、後から悔しい思いをすることが多い。
「えっ! 今、何ておっしゃいました?」
と聞き返すだけでも、その場の雰囲気を変えられるという。
都内在住の40代女性は、30代の頃、デザイン事務所で50代の男性社長のアシスタントを務めていた。当時、クライアントとの打ち合わせ前には社長に「あなたはしゃべらなくていいからね」と毎回言われていたという。女性は、かつての自分を振り返りながら反省を込めて言う。
「社長には何度も食事をごちそうしてもらったことがあります。男性と年下の女性が組んで仕事をする場合、持ちつ持たれつはよくあるかもしれないが、それによってものが言えない自分を受け入れていた。今思えば、やめるべきだった。男女が対等に歩ける新しい公道をつくる道路工事が必要なのだと思います」
(編集部・高橋有紀、ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2021年3月1日号より抜粋