春のドラマが始まった。前クールで著書の「嘆きの美女」がドラマ化された作家の柚木麻子(ゆずき・あさこ)さんが、「たまに目を閉じて」と一風変わったドラマの見方を教えてくれた。

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 森田芳光&松田優作コンビを超えられるわけなかろうと期待していなかったリメーク作品「家族ゲーム」(フジ系、水曜夜10時)が予想外の見応え。森田作品のシュールなおかしみではなく、どちらかといえばミヒャエル・ハネケ作品風のひんやりした不快感に満ちています。連ドラ向けの素材では決してないものの、家庭教師役の櫻井翔の怪演に引き込まれました。誰もがうすうす気付いていながら触れる勇気がなかった、櫻井の底の見えなさと笑顔の奥のうっすらした狂気がさらけだされています。松田優作のヌボーッと憎めない風情が彼には一ミリもなく、ゆえにひたすら怖い。脇を固める神木隆之介、板尾創路もいい。櫻井翔が役者としてネクストステージに立ったことは確かですが、パンドラの箱を開けてしまった気がしてなりません。

「家族ゲーム」と同じ時間に放送しているのが日テレ系「雲の階段」。主演はNHK大河「八重の桜」にも出演中の若手実力派、長谷川博己です。過疎の島の診療所で働く内気な青年が、周囲の要求に応えるうち、無資格のまま医師として働き、罪の意識にさいなまれることに……。長谷川が手探りで行う手術シーンは、見ているこっちもまったく「正解」がわからないだけに、手に汗握ってしまいます。瀕死の患者から血がバーッと噴き出し、「なんでもいいから縫え!」と看護師に叱咤され、オタオタオロオロ。もう免許なしでもやるっきゃない!というやけのやんぱちの心情に自然と寄りそえます。

 渡辺淳一先生原作ですが、今のところ濡れ場は控えめ。それでも妙に艶(つや)っぽく感じられるのは、長谷川の色気のおかげでしょう。とにかく彼は声がいい! いうなればサバランにふくませたシロップのごとく、体の深い深いところまでひたひたしみてくる独特の低音ボイスです。迫力の手術シーンはしっかり見たほうがいいのですが、たまに目を閉じて長谷川の声だけ味わうのもオススメ。

 気象予報士が難事件を解決する武井咲主演「お天気お姉さん」(テレ朝系、金曜夜11時15分)は、前クール最大の問題作だった剛力彩芽主演「ビブリア古書堂の事件手帖」と同じ過ちを犯しています。何を言われようと武井が今、主演を張れる若手美人女優であることに間違いはないわけですから、彼女の持ち味を活かすしか術はないのです。ところが剛力同様、現段階の力量にそぐわない「無表情な天才」役をあてがわれ、フレッシュさや勢いを封じられてしまう。「あまちゃん」の能年玲奈が恵まれた環境でのびのび演じているのと比べると、なんとも不憫(ふびん)です。いっそ、脇でスナックの女主人をとろんと演じている壇蜜主演で「お天気お姉さん」をやったほうがずっといいでしょう。

週刊朝日 2013年5月3・10日号