経済学者で同志社大学大学院教授の浜矩子さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、経済学的視点で切り込みます。
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本の執筆に向けて、菅義偉首相すなわちスカノミクス親爺の所信表明演説と施政方針演説を読み直した。そして、びっくりした。
所信表明の中で、スカノミクス親爺は「菅政権では、成長戦略の柱に経済と環境の好循環を掲げて、グリーン社会の実現に最大限注力してまいります」と言っている。「経済と環境の好循環」を「成長戦略」の柱にするという言い方が、何とも奇異だ。そもそも、国々が環境保全のための取り組みを強化せざるを得なくなっているのは、成長戦略にドライブをかけ過ぎてきたからではないのか。
デジタル化し、高速回転度を高め、エネルギー消費を過大化させつつ、地球経済がどんどん膨張していく。地球経済が、地球環境への負荷をどんどん高めていく。地球経済が地球の許容量をはみ出してしまう。このオーバーロードの結果が、異常気象であり、地球温暖化だ。
このような状況を是正するためにグリーン化が急がれるのである。それなのに、やはり所信表明演説の中で、スカノミクス親爺は「もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません」などと言っている。おいおい。経済成長をそれなりに制約することによって、温暖化を少しでも食い止める。それが筋というものだろう。
さらには、施政方針演説の方に、何と、次のくだりがある。「グリーン成長戦略を実現することで、2050年には年額190兆円の経済効果と大きな雇用創出が見込まれます」
ついに、「グリーン成長戦略」などという表現が飛び出してきてしまった。これには、唖然とするほかはない。地球からはみ出さない地球経済の規模を探りあてる。そのような規模の経済の中で、どうすれば、人類は上手に共生出来るのか。地球からはみ出さない地球経済をどのように回せば、経済活動は人々を幸せに出来るのか。これらのことを探求するのが、政策の仕事ではないのか。
何もかもを、「成長戦略」に結びつけなければ気が済まない。これはチームアホノミクスからスカノミクス親爺が引き継いでいる体質だ。だが、それにしても、「グリーン成長戦略」にはひたすら呆れる。
浜矩子(はま・のりこ)/1952年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。前職は三菱総合研究所主席研究員。1990年から98年まで同社初代英国駐在員事務所長としてロンドン勤務。現在は同志社大学大学院教授で、経済動向に関するコメンテイターとして内外メディアに執筆や出演
※AERA 2021年3月8日号