相続争いを防ぐ最も有効な手段は遺言書を残すことだ。といっても、自由勝手に書いて良いというわけではない。必要事項の不備やあいまいな表現は、遺言書自体が無効になる恐れもある。
現在発売中の週刊朝日MOOK『定年後からのお金と暮らし2021』では、法的効力を持ち、遺された者が納得できる書き方を取材した。
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相続争いを防ぐ決め手となる遺言書。遺言書がないと法定相続人が全員集まって「遺産分割協議」を行い、すべての財産において誰が何をもらうかを話し合い、全員が合意しなくてはならない。
■故人の思いを遺言に遺す大きなメリット
これは相続人の確定、相続財産の確認、相続放棄の選択などを伴うから、自分たちでやろうとすると相当に手間がかかる。一方、遺言書があれば、法定相続分にこだわらない遺産分割が可能である。
例えば、「全財産を妻に相続させたい」(遺留分がない場合)など、自分の思いをかなえる配分ができる。また、「会社の株式と工場は、後継者の長男に遺したい」というように、個々の財産の具体的な割り振りも可能だし、「親身に面倒を見てくれた息子の妻に現金300万円を遺贈する」など、法定相続人以外にも財産を分けることができる。
とくに遺言が必要なケースもある(図参照)。例えば子どもがいない夫婦で、夫が亡くなった場合、妻は全財産を相続できるとは限らない。
夫の両親は他界していても、夫のきょうだいがいれば、4分の1の相続権がある。ただし、きょうだいには遺留分がないので、「全財産を妻に相続させる」という遺言があれば、その意思を実現させることができるのだ。
■法的効力が確実な公正証書遺言
遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言がある。自筆証書遺言は、遺言をする人が遺言の全文をすべて自筆で書き、捺印して作成する。これは誰にも知られずに作れ、費用がかからないという利点がある。
しかし、勝手に開封することができず、家庭裁判所で検認手続きをする必要がある。また、法律の定める方式に沿わず、内容に不備や不明瞭な点がある場合は遺言書自体が無効になってしまうこともあるし、作成時の意思能力の有無、偽造、強要、紛失、といった不安要素もある。