風俗で働く経験は初めてだったが、「水商売の経験があったからか、そこまで高いハードルを感じなかった」(アイコさん)。アメリカの映画などで描かれる“夜の世界”に対する憧れもあり、「自分も経験してみたい」という好奇心のほうが強かったという。

■ガサ入れの危険と隣り合わせ

 アイコさんの働き方は、こんな具合だ。まず店に所属はするが、サービスの内容や金額は個人の裁量で決める。アイコさんが勤務した店は、客が店に1時間60ドル(約8千円)を支払い、接客する女性にはサービス代として客からチップが支払われる。

 そのチップが、アイコさんたち店で働く女性の収入となる。店からは「なるべく頑張ってリピーターを作ってね」とは言われるものの、ノルマなどを課せられるわけではない。客は現地の男性がほとんどだが、中には観光客もいる。マッサージ店だと思ってやってくる客には、「こんなサービスができます」と個別に交渉することになる。最初はほとんど英語が話せなかったアイコさんだが、働きながら徐々に話せるようになった。

 勤務時に稼いだ金額は、1日平均千ドル(約13万円)。週4日勤務が平均だったというアイコさんは、月1万ドル(約130万円)前後、年間で12万ドル(約1600万円)が平均的な収入だったという。

「収入から家賃や生活費などを除いて手元に残るお金も、日本よりアメリカのほうが多かった。勤務日数を増やしたら、もっと稼げたと思いますが、いわば違法営業を行う店で働く“綱渡り状態”が、思った以上に精神的にきつくて、私は週4勤務が精いっぱいでした」(同)

 違法営業を行う店で働く“綱渡り状態”──。いわく、常に警察のガサ入れなどに気を配りながら接客せねばならない状態だ。ガサ入れ時には、オーナーが部屋の外から合図を叫ぶが、警察が部屋に入ったときに何事もなかった状態にしておかなければ、間一髪の差で現行犯逮捕されることもありうる。警察が突然、抜き打ちでチェックに訪れることもしばしばで、常に外の様子に神経を研ぎ澄ませながらの接客には、想像以上に疲労感が募った。

「だけど仕事そのものは嫌いじゃなかったし、自分で試行錯誤しながら接客やサービスを頑張ると、成果が目に見えて返ってくる仕事にやりがいも感じていました。仕事を広げるために、豊胸手術もしたし、トーク力も磨いた。努力したら目に見えて返ってくるのが楽しかった」(同)

 店で働く女性同士は、ライバルではあるが、ガサ入れからみんなで身を守ったりと、いざというときの連帯感も強く、ファミリーという感じすらあった。「何の仕事をしてるの?」という話になったときに答えられないから、現地の日本人コミュニティーとは距離を置く生活を徹底していたが、店の女性たちと食事したり遊んだり、「それなりに現地の生活も楽しんでいました」(同)という。(後編に続く)

(フリーランス記者・松岡かすみ)

週刊朝日  2023年1月6-13日合併号

著者プロフィールを見る
松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

松岡かすみの記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
台風シーズン目前、水害・地震など天災に備えよう!仮設・簡易トイレのおすすめ14選