風光明媚(めいび)な山村にある築100年の古民家。格安で買い取った夫婦が、毎週末リフォームに出かけ、定年後にいろりを囲んで田舎暮らしの棲みかとする――。「空き家」といえば、そんなノンビリしたイメージを抱くかもしれない。だがそんな幸せな空き家は、ごく一部。全国に存在する空き家の数は驚くべき数字となっている。

 総務省は5年に1度、「住宅・土地統計調査」を実施している。最新の2008年の数字をみると一戸建てやアパート、マンションなどを含め、その数756万戸。住宅総数は5758万戸なので、「空き家率」は13.1%となる。実に8戸に1戸以上、誰も住んでいない住宅が存在するのだ。

 都道府県別でのワーストは山梨県。2位の長野県とともに別荘の割合が高いのが原因と考えられている。空き家数は1988年と比べ倍増しているが、調査から5年たった今、数字はさらに跳ね上がっているとみられている。

 これで驚いてはいけない。空き家率を予想している野村総合研究所のリポートは、2040年の空き家率を実に36%とはじいている。現在、年間約80万戸のペースで新築住宅を造り続けているが、約60万戸に抑えたとしてもこの数字になるという。3戸に1戸が空き家という“住宅超飽和時代”がじきにやってくるのだ。

 まさに「気がつけば周りはすべて空き家なり」の状態だが、実際に空き家が増えたことによって、われわれの生活にどんな影響が出ているのだろうか。まずは東京都杉並区の例から見ていこう。商店街の外れにひっそりと立つ家屋にある家族が住んでいたが、次々と家を離れたり亡くなったりした。そして無人になったはずの家の近隣住民は長年、悪臭に悩まされていた。

「ごみ屋敷のようになっていて、特に夏はすえたような臭いがすごかった。家の前を通るときは、道の反対側を息を止めて歩きました」(近所の住民)

 所有者の家族の一人が言う。「近所の苦情もあってここを片づけに来たら、入り口に誰かが布団をかぶって寝ていた。気付かないで踏んづけたが、酔っ払っていて、『出ていけ』と言っても返事もしない。こりゃいかんと思って鍵をつけた」。

週刊朝日 2013年5月17日号