新連載「ホリエモンのシャバ日記」が始まった。ライブドア元社長の堀江貴文氏が久しぶりの“シャバ”でまず「変だな」と感じたのは、サラリーマンならだれしも大事にするアレだという。

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 約1年9カ月の服役を経て社会復帰することができた。久しぶりに戻ってくると、いろいろな変化に気づく。最近、違和感を感じたのは名刺交換だ。

 この1年9カ月で、フェイスブックという実名制のSNSが、だいぶ普及したようだ。私の服役前はそうでもなかったが、今ではビジネスベースのユーザがかなり増えた様子で、実際のところ、私もかなり活用していて興味がある人には直接メッセージを送っている。

 フェイスブックアカウントさえ知っていれば、メッセージを送って交流することができるので、名刺がなくても簡単に人とつながれるし、交流することができるのだ。

 そこでふと思ったのが、「名刺って本当に必要なの?」ってことだ。

 私は仮出所後、服役前に大量にあった名刺を廃棄するべく、デジタル化を進めた。名刺リーダーを使ってたくさんの名刺をデジタル化して、数千枚を超える名刺をスキャンしてデータ化したのだ。

 自分でやらなくても、今はクラウドソーシング的に名刺を手動で入力してくれる無料サービスすら存在する。だけど実は、このデータを活用することってあまりなかったりする。私自身も一度も活用したことがない。単なる名刺デジタルデータコレクターとなっているような感じだ。無駄に手間がかかっているだけで何の役にも立っていない。

 名刺を頂いても二度と連絡しない人のほうが多いのに、置き場所に困る名刺を大量にもらっている。大量に名刺を持っている人はファイリング装置などを買って机の上に飾ってあるが、数年に一回程度しか結局使わないのである。

 そんなことを考えてるうちに、名刺は面倒くさいだけの時代遅れのツールなんだという思いが強くなって、名刺交換そのものの必要性に懐疑的になってくる。となれば、名刺を持つことも交換することも不要で、フェイスブックさえあれば十分なのではないかという確信めいた気持ちが芽生えてくるのだ。

 個々人はこの事象に対してどう思っているのだろうか。何人かの知人に聞いてみると、「フェイスブックアカウントを持っていない人へのアプローチに困る」という意見があったけれど、そもそもフェイスブックアカウントを持っていないような人とは仕事をしないと割り切ってもいいレベルに私の周囲は到達しつつある。つまり、皆が名刺交換をしているから惰性で続けているだけで、本当はもう面倒だからやめちゃいたいというのが本音なのだ、という結論に達したのである。

 さて、大多数が続けている無駄な習慣をいつどのタイミングでやめるのが正解なのだろうか。空気を読んでしまう日本人にとって苦痛の決断である。

 結局、夏場にネクタイを締めるのは嫌だと思いつつも周りに合わせてネクタイを外せなかった人たちが、某大臣が「クールビズ」とか言い始めると一挙にノーネクタイになってしまった事態と同じような方法が必要なのではないだろうか。

 日本人って、やっぱり“ワード”で動くのである。

週刊朝日 2013年5月17日号