「腰痛治療ガイドライン」の策定委員会委員長を務め、慢性腰痛の治療に詳しい福島県立医科大学会津医療センター整形外科・脊椎外科教授の白土修医師に、ガイドラインの意義と今後の慢性腰痛の展望について聞いた。
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わが国の腰痛患者は3千万人ともいわれ、なかでも原因のはっきりしない慢性腰痛に悩む人はそのうち約85%といわれています。
今回発表した「腰痛診療ガイドライン」は、今までに報告された国内外の約200本の研究論文を整理、分析して、現時点での適切な腰痛治療のための指針を示したものです。
慢性腰痛の治療において、非常に高い科学的根拠が認められるグレードAは、運動療法(ストレッチング、ウオーキングほか)、認知行動療法(心理行動的アプローチ)、薬物療法です。それ以外の装具療法(コルセット)、手術療法などは中等度のグレードB、物理療法(けん引)は科学的根拠がはっきりしないグレードIということがわかりました。
今回の結果は、今までさまざまな腰痛治療を受けてきた患者さんにとっては、少なからず衝撃的だと思いますが、それだけ慢性腰痛の診断と治療は混沌としていて、治療を受けても改善しない患者さんが多いことを示しています。
昨今の超高齢化社会を背景に、日本整形外科学会は「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」というキーワードを提唱し、運動器系、とくに腰痛をはじめとする脊椎脊髄疾患に注目しています。ガイドラインの結果については、整形外科の専門医ではない、地域のかかりつけ医の皆さんにも十分に理解していただき、少しでも多くの腰痛の患者さんの症状が改善され、予防にも役立つことを望んでいます。
またいちばん大切なことは、治療を受ける患者の皆さんに、自分にとって最適な治療を選んでもらうことです。腰痛の治療は多岐にわたりますが、不適切な治療を受けて、腰痛を悪化させてしまうケースを臨床現場で数多く見てきました。腰は文字どおり身体の要ですから、慎重に医師を選んでいただきたいと思います。
今後は、さらに臨床報告や試験の結果を集積、整理し、さらなる腰痛治療の向上をめざしていきたいと思います。
※週刊朝日 2013年5月17日号