紆余曲折を経て実施された大学入学共通テスト。有識者からなる「大学入試のあり方に関する検討会議」の専門家は初年度のテストの内容をどう評価するのか。AERA 2021年3月29日号は、渡部良典・上智大学言語科学研究科教授に「英語」のテスト、及び検討が重ねられている「英語の民間試験」導入の見通しについての考えを聞いた。
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大学入学共通テストが今年1月、初めて実施された。2019年11月、12月に、目玉とされてきた「英語民間試験」「国語と数学の記述式問題」の導入が見送られた。加えて新型コロナによって従来とは違う試験日程が組まれるなど波乱の初年度となった。
並行して19年12月末、萩生田光一文部科学相のもと「大学入試のあり方に関する検討会議」が設けられ、25年以降の「英語民間試験」「記述式」の導入をはじめ、大学入試のあり方について検討を重ねている。当初は、昨年中に提言をまとめる予定だったが、第1回共通テストの状況などを見てからとなり、取りまとめは夏前になる見通しだ。
初年度のテストの内容については賛否両方の意見があり、検討会議での検証を求める声も上がる。同会議には各教科の専門家が委員として入っている。第1回共通テストをどう評価しているのか。「英語」と英語民間試験の導入の見通しについての考えを渡部教授に聞いた。
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■「何ができるか」のスキル重視へ
センター試験から最も変化が大きかったといわれるのが英語です。背景に「言語の知識」や「精読による精密な内容理解」より、言語を使って何ができるかのスキルを重視する「機能的言語観」への転換があります。出題内容を見ると、表の作成やプレゼンテーションのスライド作り、旅行プランの組み立てなど多岐にわたります。「共通テストはTOEICの試験のようだった」という声が上がったのも、こうしたことに起因します。
さらに言語能力はBICS(Basic Interpersonal Communicative Skills)とCALP(Cognitive Academic Language Proficiency)に大別されます。BICSは日常生活を営むうえで必要な基本的な力、CALPは認知的に高度な能力が必要とされる力です。共通テストでは、ルームメートの忘れ物をめぐるスマホでのメッセージ、教師とのメールのやりとり、ファンクラブの入会案内など、BICSの比重が高かったと言えます。六つある大問のうち、CALPが求められたのは、大問5の牛に芸を教えた女性の記事、大問6のアイスホッケーの安全性や甘味料に関する文章など非常に限られました。