
ゴールデンウイーク最終日の5月6日、富士山を望む山梨県富士河口湖町のゴルフ場に、安倍晋三首相(58)の姿があった。快晴の青空の下で昭恵夫人(50)らと汗を流した安倍首相は「富士山からパワーをもらった」と、満面の笑みを浮かべた。
余裕の休日を過ごせるのも、アベノミクスが好調なゆえ。ただし、見る人によっては実に“意味深”な休日だったようである。
ゴルフ前日の5日夜、安倍首相は山梨県鳴沢村にある自身の別荘に滞在した。祖父・岸信介元首相の時代から手直しして使っているという小さなログハウス風の山荘だ。その“隠れ家”を、一人の経済学者が訪れた。静岡県立大教授の本田悦朗・内閣官房参与(58)である。本田氏は安倍首相らと約3時間にわたって夕食をともにした後、午後9時前に別荘を後にした。
「本田さんと難しい話はせず、ずっとバカ話ばっかりだったようです。安倍さんは連休中に訪ロする前から『帰ったらバーベキューをやる』と言ってましたから。寒い中、外で番記者たちが待っていたから、取材しないことを条件に中に招き入れ、焼きそばとカレーライスをご馳走していました」(安倍首相周辺)
とはいえ、多忙な首相を3時間も“独占”できる学者はそういないだろう。翌朝のゴルフでも、本田氏は一緒にラウンドした。
一方の安倍首相は異例の過密スケジュールだった。
4日夜、鳴沢村の別荘で1泊すると、翌5日は東京ドームで長嶋茂雄、松井秀喜両氏への国民栄誉賞表彰式に出席。夕方には鳴沢村にとんぼ返りしてまで、本田氏との会食に臨んだのだ。単なるバカ話のためとは考えづらい。
本田氏は大蔵省(現・財務省)の官僚出身で、外務省出向中に在米日本大使館公使などを歴任。アベノミクスを推進するリフレ派の論客として知られ、4月に「安倍総理公認」と表紙に大きく銘打った著書『アベノミクスの真実』(幻冬舎)を出版した。著書の前書きによれば安倍氏とは1980年代半ばから交流があり、《気さくに意見交換に応じていただいています》という親密さだ。
安倍政権下で内閣官房参与に就任したブレーン中のブレーンなのである。本田氏は以前から消費増税に慎重な立場で、最近も「増税は延期すべきだ」と周囲に漏らしたという。
それだけに、来春に迫る消費増税を延期するシナリオを準備している――。永田町、霞が関でこうした観測も飛び交うのだ。
消費増税といえば、昨年8月に国会で消費増税法が成立したことにより、2014年4月に8%、15年10月には10%へと増税されることが決まった。ところが、実はこの法律には「景気条項」と呼ばれる条件がつけられていて、経済の状況次第で増税先送りも可能になっている。安倍首相は4~6月期の国内総生産(GDP)の結果などを見て、9月から10月に決断するとしている。
「もともと安倍首相は増税に反対で、まずは景気回復優先という考え。首相になる前は、『こんな時期に消費増税なんてバカだ』と言っていたくらいです。せっかく経済が順調なんだから、増税を先送りして様子を見る選択肢も頭の中にあるでしょう」(首相周辺)
実際、増税先送りは決して絵空事とは言えなくなってきた。本田氏と同じく内閣官房参与を務め、アベノミクスの理論的支柱である米エール大の浜田宏一名誉教授(77)までもが、本誌の独占取材に「増税は1年先送りするべきだ」と明言しているのだ。
※週刊朝日 2013年5月24日号