今、望んで孤独や孤立を選ぶ人が増えている。私もその一人。子供の頃、結核という感染症で二年間、疎開を兼ねて家に隔離され、学校にも行けず、友達もいなかった。
しかしあの二年間のなんと満ち足りていたことか。隣の部屋には、父の蔵書や画集も疎開しており、一冊ずつ抜き出しては眺め、たまに調子がいいと散歩に出る。向かいの陸軍病院の軽症患者の白衣の兵をお伴に……。
そこで私は孤独の種を自分の心に蒔き、水をやり育てた。「極上の孤独」である。同名の私の本が売れたのも、今も孤独をタイトルに付した書が氾濫しているところを見ても、人はおそれながらもどこか孤独に憧れている。孤を知る人は孤独に強く、孤立にも負けない。
その上で知る人恋しさもある。このコロナ禍の中、私も不安やイライラはつのる。しかしこれも、孤独のレッスンと思えば苦にならない。
※週刊朝日 2021年4月2日号
■下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。主な著書に『家族という病』『極上の孤独』『年齢は捨てなさい』ほか多数