出産時の事故で重い脳性まひになった赤ちゃんの約3割に陣痛促進剤(子宮収縮薬)が使われ、そのうち8割近くでガイドラインを逸脱した不適切な使い方があったと報じられた。報道の発端は、出産で赤ちゃんが重度の脳性まひになった際に補償する「産科医療補償制度」を運営している公益財団法人・日本医療機能評価機構の「再発防止報告書」。陣痛促進剤と脳性まひにはどのような関係があるのか。
陣痛促進剤(陣痛がない状態で使用する薬は「陣痛誘発剤」と呼ばれる)は飲み薬や点滴で投与される。薬の効き方には個人差が大きく、副作用もある。副作用では、強すぎる陣痛によって子宮が破裂したり、強い子宮の収縮で酸欠状態が続き胎児の脳性まひを招いたりするおそれがある。
そのため近年、妊婦や家族、産科医たちに、陣痛促進剤を敬遠する動きが出てきている。その流れの中で、今回の報告書が出された。
同制度の原因分析委員会委員で日本医科大学多摩永山病院副院長の中井章人(あきひと)医師は、こう話す。
「『陣痛促進剤=脳性まひ』ではありません。今回の分析では、陣痛促進剤を投与していた事例は多かったものの、薬の投与が脳性まひの主な原因だった事例は1件。原因の一つとして何らかの影響を与えた可能性がある事例は6件でした」
報告書によると、脳性まひの原因で最も多いのは、正常な位置にある胎盤が赤ちゃんが産まれる前に子宮壁からはがれてしまう「常位胎盤早期剥離(はくり)」で59件(31.4%)だった。
「もちろん、陣痛促進剤による事故は『ゼロ』が理想ですが、リスクが高い出産を多く診てきた立場からすると、1件で『陣痛促進剤が危ない』という見方は厳しすぎる。日本の出産に関する医療水準は世界トップです」(中井医師)
中井医師は、「ガイドラインの周知によって、産院の予定に合わせるための安易な陣痛促進剤の使用や、基準を大きく外れた投与は減ってきた」とも言う。
とはいえ、この報告書は脳性まひについてのものなので、死産の場合や、副作用はあったが子どもに障害が起きなかったケースは含まれていない。「陣痛促進剤による被害を考える会」の出元明美代表は報告書について、こう話す。
「さまざまなケースを加味したとき、陣痛促進剤の被害の数字が大きくなることは十分考えられます。188件中7件で子宮破裂があったが、これらは陣痛促進剤との因果関係がないと分析されています。とてもじゃないが信じられない」
※週刊朝日 2013年5月24日号