YouTubeのライブ配信で「私はこの体について、ポジティブなことを伝えてきた」と話した渡辺直美さん。ボディポジティブの世界的アイコンの一人だ (c)朝日新聞社
YouTubeのライブ配信で「私はこの体について、ポジティブなことを伝えてきた」と話した渡辺直美さん。ボディポジティブの世界的アイコンの一人だ (c)朝日新聞社
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パリで開かれたボディポジティブをテーマにしたファッションショー。さまざまな体形のモデル約500人がパレードした/2020年9月27日(gettyimages)
パリで開かれたボディポジティブをテーマにしたファッションショー。さまざまな体形のモデル約500人がパレードした/2020年9月27日(gettyimages)

 タレントの渡辺直美さんへの差別的発言で、東京五輪の開・閉会式の演出を担当する佐々木宏さんが辞任した。演出チーム内のLINEで、渡辺さんを豚に見立てた演出案を提案していたという。渡辺さんは「ありのままの体形や見た目を愛そう」という「ボディポジティブ」ムーブメントの世界的アイコンだったこともあり、騒動は注目された。一部では「渡辺さんは自分で豚役もしていた」といった佐々木氏を擁護するような声や、「LINEの情報が流出したことが問題」といった指摘もあったが、この騒動からは日本の「国際常識」とのギャップも見えてくる。AERA 2021年4月5日号の記事を紹介する。

【写真】パリで開かれたボディポジティブをテーマにしたファッションショー

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 エシカルでサステナブルな暮らしをガイドするウェブメディア「ELEMINIST」は昨年9月にボディポジティブのムーブメントを企画編集した。編集部の山田勇真さん(25)は言う。

「そもそも好きな服を着たり、好きなメイクをしたり好きな髪形をしたり、自分の魅力を自分のために表現するのがファッションの楽しさ。それを大切にし、既存の社会の押し付けに対して反発しているのがボディポジティブだと考えています」

 しかし日本は海外に比べてボディポジティブの価値観が浸透していない。それが、今回の問題の捉え方を歪める要因の一つにもなった。山田さんは言う。

「人種やジェンダー問題も含めた差別や偏見について、日本社会ではあまり議論の対象にされてきませんでした。これまでないがしろにされてきた問題が五輪をきっかけにあぶり出されたのだと思います」

 森氏の発言や佐々木氏の演出案は、日本社会の日常にありふれた価値観に基づく言動だった。だから、それを受け止める社会の一部も「国際常識」とのギャップを引きずったままになる、というわけだ。

 山田さんは「LINEの情報が流出したことが問題」との指摘について、「例えば勤務先で受けた人種的差別の内部告発に対して、NDA(秘密保持契約)は適用されるべきではありません。今回の差別的言動に対する告発も守秘義務違反に当たるというのは筋が通らない」と反論する。

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