「根が深い問題ですね……」
鍼を打たれながら悶々とした気分になっていると、「でもね」と鍼灸師はこう続けるのだった。
「公務員の人のテレワークって、ちょっと違うみたいなんです。テレワーク中、こたつで丸くなりすぎて腰が固まったという人もいましたよ」
なにそれ。鍼灸師が言うには、家で重要な書類を扱う仕事ができないため、ほぼやることがなく、ついつい寝過ぎたり、ごろごろしていて寝違えたりして腰を痛めたという公務員が患者に数人いるという。全員がそうではないと願いつつ……いったいこの国のデジタル化はいつすすむのでしょうか。
コロナ禍。女性が多くを占めるエッセンシャルワーカーの現実が浮き彫りになった。テレワークができず、感染の高いリスクにさらされながらも低賃金での労働を強いられている女性たちの厳しさは、決して解決された問題ではない。一方、テレワークができる側の労働者も、長引くコロナ禍で心身ともに追い詰められていっているのかもしれない。パンデミックにより、私たちの社会の弱点が次々に浮き彫りになっていく。
私は肩こりがはげしく、ほぼ1年ぶりの鍼灸院だった。同じ診察台で鍼を打たれている同時代を生きる「わたしたち」のことを思う。彼女たちに直接会っているわけではないのに、どこかつながっている、なにか不思議な方法で情報交換をしているような気分だ。けっこう高度な情報社会だ、街の鍼灸院。
明日をまた生きるために、痛んだ体と心を休ませる。そんな「わたしたち」の個や力が、もっと優しく大切に見守られる社会になれたらいい。感染者が増えている今、終わりの見えないストレスを、これ以上支配と監視で深めないためにも。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表