作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、日本のテレワークについて。管理と監視が厳しくなってきているのを感じるという。
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「最近、テレワークで体を壊す人が多いんですよ」
通っている鍼灸院の先生がそう言っていた。聞けば、テレワークになってから監視体制がいっそう厳しくなった会社が少なくないという。
マウスが5分間動かないと会社に通知されるシステムが導入され、仕事中にトイレにも行けなくなってしまったという人。一日中、オンライン会議のビデオカメラを作動させていなくてはいけない人。もちろんカメラの向こうには上司がいる。互いのパソコンで何をしているのかが分かるシステムになっていて、別にサボっているわけではないが緊張を強いられ続けている人。会社の規模はそれぞれだが、テレワークになって、より管理と監視が激しくなっているというのだ。
私の知人にも、テレワークになってから1時間ごとに会社に作業報告を義務づけられるようになった、という人がいる。オンラインでカメラつけっぱなしはあたりまえ、パソコンのデータは常に本社と同期され、監視されていると、げっそりした顔で教えてくれた。
「正直、満員電車のほうがましな気がしてきました……」と知人は嘆いていたが、満員電車かカメラでの監視かの2択だなんて、地獄でしょう。
その鍼灸院では患者の8割以上が女性ということもあり、テレワークで体を壊す人の多くは非正規雇用だとも鍼灸師は教えてくれた。
「皆さん、じっと耐えてます。いろいろ言いたいことはあっても、来年の契約がもらえなかったら、生活できなくなるからって」
もちろんこれはテレワークの是非の問題ではない。テレワークでより個の空間と時間を充実させられ、そのことによって仕事も深まっていく体験はいくらでもある。おそらく日本の組織の考え方の問題なのだろう。「効率化」とか「生産性を高める」とかの名のもとに人件費の予算を削り、非正規雇用を増やしてきた日本の会社。決定権のある立場に就く女性はいまだに少なく(2020年時点で、女性管理職の割合はたった7.8%。国際的にみても最下位のほうです)、多様性などそもそも面倒だと思っている、組織に絶対忠誠を誓うピラミッド体質のボーイズクラブ。風通しが悪く、常に周囲の顔色をうかがうように働くことが日常。そもそも働くという行為自体が、何か鎖につながれ、すり減らされ、うなだれ、強い者に踏みにじられるような惨めな気分を強いられるものだったりする。そんな働き方を日常的にしている会社ほど、テレワークになったとたん、ここぞとばかりに監視と管理を深めていくのかもしれない。