別々のカバーアルバムを発売したばかりの堂本剛さんとASKAさん。自らの音楽史の原点として、ASKAさんをリスペクトし、その楽曲をカバーした堂本さん。東日本大震災の復興支援のため昭和歌謡の名曲を歌うASKAさん。師弟のような関係の2人が対談した。
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堂本:お母さんがとにかく「はじまりはいつも雨」が好きで、カラオケに一緒に行くと「剛、またあれ歌って」って。だから母との思い出の曲でもあります。
ASKA:不思議だったでしょ。レコーディングするのは。
堂本:それが、実現するまでには自分の中で葛藤がありまして…。カバーアルバムの企画をいただいたときに、楽曲を作られた方がその曲を大切に思う感情と、僕と同じように大切な思い出と共にその曲と生きているリスナーの存在が気になったんです。いい意味での抵抗がずっとありました。どの方の曲も僕の中で思い入れが強いがゆえに、カバーという形で歌うものではないと。だからずっとお断りしてたんです。緊張して無理ですって。
ASKA:本当? そんなふうに思ってたんだ。
堂本:自分がシンガー・ソングライターとしての出発点、「街」という曲を書いて10年がたち、「はじまりはいつも雨」という僕の音楽人生にとって大切な曲を含めた、大好きな楽曲への感謝とリスペクトを込める。そんなカバーアルバムならばと決心しました。
ASKA:そこまで悩んで決めたんだ。驚いたな。
堂本:カバー曲のアレンジは、ASKAさんともお仕事をされている、キーボード奏者の十川ともじさんにお願いしました。十川さんは僕もシンガー・ソングライターとして音楽に向き合い始めたときからご一緒させていただいている方で、その点でもASKAさんとのご縁を感じてしまうんです。いざレコーディングとなると、あまりテイクを重ねると頭で歌っちゃいそうだから、「3回か4回、まず歌ってみます。ASKAさんの楽曲を強く歌えばいいか、やわらかく歌えばいいか、いろいろ試させてください」と。いくつかのバージョンで歌って、結果、さっき(対談の前に)聴いていただいたテイクを選びました。録音の間もずっと緊張が…。
ASKA:ハハハ。僕の場合、最初に買ったシングルレコードは、ピンキーとキラーズの「七色のしあわせ」なんですよ。ピンキーとキラーズのデビュー曲は、「♪忘れられないの~」 って、「恋の季節」だけど、あれは買わずに、5曲目の「七色のしあわせ」が出たときにすぐに買いに行った。結局、これを今回カバーさせてもらいました。
堂本:初めて買ったシングル曲にやっぱり思い入れがあったんですか。
ASKA:実は気にしてなかった。そういえばそうだったってくらい。ちっちゃいころは、「ターザンのうた」とか、子どもが聴く歌は買ってもらっていたんだけど、歌謡曲という意味で自分から欲しいと思ったのは「七色のしあわせ」が初めてだった。それはそうと、僕と剛、お互いカバーアルバムをほぼ同時期に出して、なんか同じものをチョイスしてるよね。(笑)
※週刊朝日 2013年5月24日号