たとえば、iDeCoやつみたてNISAなどで普及したつみたて投資も、暴落のときは価格が下落するので投資対象を安い価格でたくさん買うことができる。「暴落だから怖い」といってつみたて投資をやめてしまうのは愚の骨頂だ。長い目で見れば、暴落後に株価が反転上昇する時期になるべく大きな金額を投資することが、資産形成で成功する秘訣といえる。

 まだ株式投資を始めていない人がニュースなどで「暴落」という言葉を聞いたら、まさにそのときが株式投資でFIREを目指す大チャンスだ。

「NYダウが2度も過去最大の下落幅を更新した昨年3月のコロナショックほどの下落はそんなにありませんが、15%程度の下落は毎年のように起こる。常に余裕資金を証券口座に入れておけば、『あっ、大きく下がったから今買おう』ということもできます。長期つみたて投資を行っている間も、暴落時には買い増すぐらいのほうが早期で資産を形成しやすい」(馬渕さん)

■少額投資難しい日本株

 多くのFIRE達成者を生んだ米国株の好調。では、日本株への投資でFIREを達成するのは難しいのだろうか。日本株が資産の60%を占めるちーさんはこう話す。

「私が投資を始めたときは米国株を気軽に買える証券会社があまりなかったように思いますが、最近はネット証券でも買いやすくなりました。米国の株価指数に連動した投資信託にも、本当に良質で低コストなものがたくさんあります。日本株を全部売ることはありませんが、今はS&P500に連動する投資信託など、米国株の比率をなるべく高めています」

 多くの個人投資家が米国株を意識する背景には、日本株の取引のしにくさもある。前出の馬渕さんが指摘するのは、1株単位で買える米国株に対して、日本株は100株単位でしか買えない点だ。GAFAMで一番株価が高いアマゾンでも1株約3千ドル。1ドル=100円なら、30万円で買うことができる。一方、1株8万円台のファーストリテイリング株を買うには800万円超の資金が必要になる。日本株は優良企業になるほど高額な資金がないと購入できないのが現状だ。

 デフレの時代はモノの値段が下がるので、現金を抱えているのが正解だった。しかし、インフレの時代になると、現金の価値はどんどん目減りしていく。FIREを目指す目指さないは別にしても、「投資しないリスク」にもっと敏感になるべき時代がすでに来ている、といっても過言ではない。(ジャーナリスト・安住拓哉)

AERA 2021年4月5日号

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