ダレン氏は、深刻になり過ぎず、悲惨なエピソードも笑い飛ばし、「腫物」にガンガン触っていく(笑)。触ったり触られたりしているうちに、麻痺し、自分の中の「膿」が取れていく感情を覚えました。人の記憶は意外と定まっていないことも知った。同じ記憶でも、その日の気分によって腹が立ったり、良い思い出になったり。これも「対話」の面白さです。生き物のように変わっていく記憶が脚本に生かされる。

■記憶や感情を感じて

青木:コロナ禍で「対話」の形式が変わったと実感しています。オンライン会議では目的以外の「対話」がしにくくなってしまった。社会で独りになりやすい人々はなおさら、何げない話し合いが大切だと思います。多様な属性の人々に対し、心の壁を取り払っていくためには、単に「知る」だけではなく、実際に出会う「対話」が有効だと思います。観客は、聴き役に回るだけでなく、ときに舞台から質問も飛んでくるために、「対話」の相手になることも求められます。

入江:今回のような「二度と体験できない作品」は貴重です。脳内で再生されていく彼らの記憶や感情を、皆さんにもダイレクトに感じてほしい。

青木:ひとりで悩む人、悶々と何かを抱える人にぜひ観ていただきたい。心をふっと軽くしてもらう契機になればと思っています。

(ライター・加賀直樹)

AERA 2021年4月12日号

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