米国で、アジア系市民に対するヘイトクライム(憎悪犯罪)が深刻な問題になっている。米国に移民として渡り、または米国で生まれ、学歴も経済力もつけたアジア系市民たちが、この惨状を前に胸の内を語った。
【写真】「アトランタの殺害は二つの意味でショックだった」と語るス・チャン
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「なぜ、きちんと法を守って暮らしている人間がいじめられる?なぜ、私たちのお年寄りが、道で殴られて殺されなければならない? それを考えると、私は夜、眠れない」
ロサンゼルスのコリアタウンにある野球場で開かれたアジア系ヘイト犯罪の犠牲者追悼集会に集まった150人ほどに向かい、アン・リンは壇上からそう叫んだ。
3月16日に、ジョージア州アトランタのマッサージ店で働いていた韓国系の女性ら6人を含む計8人が白人男性に射殺される事件が起きた。その後、ニューヨークの街では65歳のフィリピン系の女性が道端で黒人男性に蹴られて重傷を負う事件が起き、その暴行の場面を捉えたビデオがネットで拡散された。
いま、全米で同時多発的に起きているアジア系ヘイト犯罪。主なターゲットはずばり「女性」と「高齢者」だ。
ロサンゼルスのアジア系のキリスト教会が主催したこの犠牲者追悼大会で、28歳のベトナム系アメリカ人であるリンは、震える声で、自らの経験を告白した。
「私はかつて『君はホワイトウオッシュされている』と言われるたびに、密かに喜びに浸っていた。なぜなら『ホワイトウオッシュ』という言葉は、4歳でこの国に移民してきた私にとって、最上級の賞賛の言葉だったから」
両親に連れられてベトナムからアメリカに移民してきたリンに対する熾烈な人種差別は、小学校入学の日から始まった。「こいつFOBだ!」と同級生から一斉にからかわれたのだ。「え、FOBって何?って頭が混乱した」とリン。「FOB」とは「フレッシュ・オフ・ザ・ボート」の略で、移民してきたばかりの人間を指す。
この「FOB」は、アメリカの生活様式や風習をまだ身につけていないことを揶揄する差別用語だ。特に、ベトナムなどからの難民を蔑む場合などに使われている。まだあどけない7歳の子供たちが、差別用語で同じクラスの子供を糾弾する。うっかり母の手製のベトナムの食べ物を学校に持って行くと「何だそのにおい!」とクラス中の嘲笑の対象となった。いつしかリンは、自分の母国語であるベトナム語と祖国の食べ物を拒否し、忌み嫌うようになった。