つまずき、転んで骨折……実は高齢者にとってこれほど危険なことはありません。そしてその一因が「難聴」であることをご存じでしょうか。現在発売中の『「よく聞こえない」ときの耳の本 2021年版』では、なぜ転倒が危険なのか、なぜそれが耳と関係しているのかを医師が解説しています。
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「めまい」があると、転倒リスクが2倍以上になる――医学研究でこのような結果が明らかになっています。しかし、ただ「転ぶ」ことにいったいなんの問題があるのでしょうか。聖マリアンナ医科大学病院の肥塚泉医師は、認知機能の低下を懸念します。
「高齢者の転倒は、大腿(だいたい)骨近位部(大腿骨の骨盤につながる部分)の骨折の原因になります。ここは体重の支持にかかわる重要な部分で、骨折してしまうと寝たきりになってしまうことも。入院して自由に動けず筋肉量が減ると、人とのかかわりが低下してしまい、認知機能がダウンしてしまいます。そして、そんな大腿骨近位部骨折の原因の74%は転倒なのです」
転倒の危険性はそれだけではありません。厚生労働省の「人口動態統計」(2019年)で、65歳以上の「不慮の事故」による死亡の内訳をみると、「スリップ、つまずき及びよろめきによる同一平面上での転倒」が22%を占めています。これは交通事故(8%)よりも大きい割合です。
また、同じ調査では「浴槽内での及び浴槽への転落による溺死(できし)及び溺水」も16%と多いですが、これも「浴室での転倒が一因」と肥塚医師は話します。
「意外にも、転倒は高齢者の死亡リスクになっているのです」
また、転倒を引き起こすめまいは、難聴とも関係があるというのです。どういうことでしょうか。
「めまいと耳は密接に関係していて、めまいの7割は耳の不調が原因です。聴覚をつかさどる蝸牛と、からだの平衡感覚をつかさどる三半規管などがつながっているからです。加齢で内耳の機能が弱くなる、つまり耳が悪くなると、からだのバランスのとり方も悪くなる人が多いのです」