2009年に始まった「産科医療補償制度」。この厚生労働省主導の医療補償制度で、保険会社が莫大な剰余金をため込んでいる事実が明らかになった。

 産科医療補償制度では、分娩時の医療事故で重い脳性まひになった子どもの保護者に、3千万円の補償金を支払う。運営主体は、病院の第三者評価をしている公益財団法人日本医療機能評価機構。実際の保険業務は東京海上日動火災保険など五つの損害保険会社が担っている。当初は、医療訴訟を減らし、産科医不足を食い止める一手として期待されていた。

 ところが、実際に始まってみると、すぐに保険契約の内容に疑問が浮上した。補償対象となる子どもは想定していた年間500~800人を大幅に下回り、200人以下にとどまる(13年4月現在)。5月22日、全国28の産科医院や助産院などの分娩機関と1041人の妊産婦が、掛け金3万円のうち2万円(計2082万円)の返還を求めて調停を国民生活センターに申し立てた。代理人の井上清成弁護士はこう語る。

「補償金は20年間の分割払いですから、09年から12年までに約41億円しか払われていないと推計されます。事務費を除いても毎年200億円以上、昨年までに800億円以上の剰余金が出ているはずです。今まで掛け金を払った妊産婦500万人に返還するのが筋です」。

 今年の分を含めれば剰余金は1千億円に達すると、主張する。

 この制度は任意加入の民営保険だが、公的な性格が強い。掛け金の3万円は、国民健康保険や健康保険組合が妊産婦に払う「出産育児一時金」に上乗せされている。要は税金と社会保険料が財源だ。妊産婦だけでなく、それ以外の人もかかわる問題だ。

 民間保険にもかかわらず、すでに全国の分娩機関の99.8%が加入しており、妊産婦は、ほぼ選択の余地のない状態で制度に加入している。

 掛け金の取りはぐれがなく、多額の剰余金が残る“官製”保険。保険会社にとって、これほどおいしいビジネスはない。

AERA 2013年6月3日号