■塾の「うちに入らないと合格は難しいですよ」の集客作戦

 さらに、塾はよく、「うちに入らないと合格は難しいですよ」と不安をあおる「不安訴求」という方法で、生徒の集客をするとも聞きます。

 ここでやっと不合格者の存在感を出してくるのですが、見逃してはならないポイントは、塾の内部ではなく、塾に入らなかった生徒の不合格感を強調する点です。

 A塾は、「うちの塾は20人もの生徒を合格させた素晴らしいノウハウをもっていますが、それがなくても合格できますか?」と問うてくるのです。

 実際は、そのノウハウを使っていた80人もの受験生が落ちているのだから、決して有効なツールとはいえません。入手して活用したところで、合格する確率はたった20%だったりするのです。

 受験は、生徒側からしてみれば、人生の分岐点であり、一生にたった一度しかない、重要なものです。それにもかかわらず、大手塾側の視点にたつと、何百人もいる生徒の中の一人、毎年あるイベント、という位置付けになってしまうのは、仕方がないことではありますが、あまりにシビアな気がします。

■学校側の打算で東大受験を反対された高校時代

 塾のことばかりを書きましたが、私について言えば、高校の先生から何度も何度も「〇〇大学に行くのが良い」と説得されました。

 いくら私が、「浪人してもいいから東大を受ける」と言い張っても、向こうは頑なに意見を押し付けてきました。

 その背景には、確実に「浪人することで、大学進学者の数が減る」という学校側の打算が存在したでしょう。私が通っていた高校は私立だったので、やはり来年度の受験生を集めるために、パンフレットに載せる大学進学者の数を増やす必要があったわけです。

『学問のすゝめ』でおなじみの福沢諭吉は、「学問を勤めて物事をよく知る者は貴人となり富人となり……」と言いました。

 彼がここで言う学問とは、学校で勉強する座学ではなく実学、つまり今でいうビジネスのことなのだとか。

 それにしても、子どもが勉強を教わる場所で、彼のいう学問が遺憾なく発揮され、彼の顔が書かれた1万円札が行き交うという、このシュールさ……。もちろん、全ての塾や学校が、商売寄りの選択を勧めてくるわけではないし、儲け度外視の人情味にあふれた塾が存在することも理解しています。 

 ただ、教育の無償化が唱えられるこの時代の中、塾の窓に紙がベタベタと張り付けられている景色に、私は奇妙な肌寒さを覚えてしまうのです。

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