日本のみならず、米国や韓国も驚かせた飯島勲内閣官房参与の突然の訪朝。その意図にさまざまな憶測が飛んでいるが、ジャーナリストの田原総一朗氏は、公表されていない北朝鮮にいる日本人8人の帰国が絡んでいるという。
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5月14日、飯島勲内閣官房参与は、唐突に北朝鮮を訪問した。米国・韓国に事前に知らせず、出し抜くように訪朝したことには両国から不快感が示されたが、一方で、真偽は不明なものの気になる報道もある。23日、北朝鮮に拉致された可能性がある「特定失踪者」2人の帰国を北朝鮮側が提案していたと、韓国紙ソウル新聞が報じたのだ。
いったい、飯島氏はどのような目的で北朝鮮を訪問したのか。
飯島氏は2002年に小泉純一郎首相が北朝鮮を電撃訪問したとき、首相秘書官として随行した。そして04年の小泉首相の再訪朝は、外務省を出し抜いて、飯島氏が朝鮮総連のパイプで道筋をつけたのであった。小泉訪朝で、拉致被害者5人が帰国し、再訪朝でさらにその夫や子どもなど8人が帰国した。ところが、北朝鮮は横田めぐみさん、有本恵子さんら8人の拉致被害者については「死亡した」と発表。帰国を求める日本側との対立が今も続いている。
繰り返し記すが、飯島氏は小泉首相の2度の訪朝に随行し、彼流に北朝鮮とのパイプを作っている。残された拉致被害者の手がかりがいささかでもつかめていたら、小泉首相時代に究明していたはずである。実行犯の引き渡しについても、福田康夫首相時代に北朝鮮側に強く求めたが、かたくなに拒否されている。
実は、その福田首相時代、北朝鮮側は、彼らが「死亡した」と主張する拉致被害者8人以外に、北朝鮮に複数の日本人がいると言ってきた。私自身、北朝鮮に行ったときにそのことを国交正常化交渉担当大使の宋日昊(ソンイルホ)氏から直接聞いている。飯島氏は宋日昊氏を小泉訪朝時代から知っていて、今回の訪朝でも複数回会っている。当然、飯島氏は、北朝鮮に8人以外の複数の日本人がいることは知っているはずである。
「実は北朝鮮側は、『もしも帰国させたら日本人の北朝鮮に対する感情はよくなるか』と尋ねてきたのです」
外務省はひそかに調査したが、たとえ複数の日本人が帰国しても、日本人の北朝鮮に対する感情はよくならないと判明したのだという。この当事者はこう続けた。
「そこで、両国で、この話はなかったことにしようということになったのです」
飯島氏は、もちろんこのいきさつは熟知しているはずである。訪朝が拉致問題の進展を狙ったものだとすれば、この話を復活させる気ではないだろうか。そして、そのために安倍晋三首相が訪朝するということになるのだろうか。
※週刊朝日 2013年6月7日号