■ワクチン開発にもっと研究開発費を出すべきだった
――ワクチンを確保するためには、国内でワクチンを生産できる環境をつくることが必要なのでは
国内でワクチンを生産できる体制があるのが、本当はいい。いろいろ反省点はあります。今回ワクチンを作ったモデルナ、ビオンテック、オックスフォードは、全部産学連携から出てきたものです。いわゆるベンチャーです。こうしたところから出てくる取り組みが、日本では弱い。アメリカではアップルやグーグルなどのベンチャー企業が出てきて、世界を席巻している。新陳代謝もものすごく激しい。ところが、日本は大企業がずっと残っている。そういう文化では、世界のイノベーションにはついていけない。アメリカでは投資額の桁が違いますよ。モデルナの「メッセンジャーRNAワクチン」は、10年も前から多額の投資を受けており、それが今回のワクチンにつながった。
それから、日本では産学連携がすごく弱かったというのもありますね。大学がすごく閉鎖的にやってきたというのは事実です。また、バブルが崩壊してから、研究開発投資が進まなかったというのもある。
国際的な連携ができていないというのも課題です。ワクチンの臨床試験は、国際的な連携から出てくるものです。島国の宿命ですが、やはり英語教育も見直さないといけない。いろいろと反省点があり、言い出すときりがない。
――政治・政府の責任や課題はどこにありますか
もっと研究開発費を出すべきだった。日本の研究力が弱くなっているというのは有名な話です。そこをどう考えていくか。人材投資をしなければいけなかったし、理系教育もしなければいけなかった。国家百年の計で、小学校教育から変えないと良い人材は育たない。最終的には人材なんですよ。そこを育てていくことはできなかったですね。
それから大学のオープン化も十分ではない。アジアの人材を取り込めるだけの大学にしないといけない。そこも遅れてきましたね。海外の大学の何が優れているかというと、世界各国の優秀な人材が集まってくるから。日本人がノーベル賞を受賞したといっても、多くがアメリカで研究をしている。それではアメリカの研究ですよ。我々も、優秀な研究者が欧米から来てくれて、活躍できるような場をつくればいい。沖縄科学技術大学院大学には海外から申し込みもあり、一つの例だと見ています。
民間は比較的頑張っているが、政府はなかなかそこに取り組めなかった。バブル崩壊や少子高齢化もあり、研究の問題については後まわしにされてきた。目の前の問題ばかりやってきて、長期的な視点がなかったと思います。