転職というと30代前後がキャリアアップのためにするものというイメージがある。しかし最近では退職してからも積極的に未知の職種に挑む人が増えている。

 52歳でソニーを退職し、公募で神奈川県立高校の校長職に就いた吉田幸一さん(59)は、人事や海外マーケティングなど会社の中枢を担ってきたが、「残りの人生、情熱をより社会に貢献できる場に生かしたい」と考えたことが転職につながった。

 現在は、県立七里ガ浜高校に勤務。生徒の誕生月にランチをともにする「誕生月懇談会」を始め、生徒の本音に近づく。生徒や保護者に本気を伝えるため、集会では原稿を読まない。教育の現場ではビジネスの常識が通じないことも多いが、「50代で再度染まり直す」覚悟で教育現場にのめり込んでいる。

 50代の転職は自分ではベストだったと思う。保護者と同世代の40代では「若さ」や経験不足を心配される。60代なら気力、体力が続かない。

「経験と情熱がともに満ちているときが、転身するのに最もふさわしいと思います」

 転職支援会社ビズリーチが主に40代、50代の会員に行った調査では、約8割が「65歳定年制に賛成」だが、約6割が「転職の意向がある」と答えた。やりがいさえあれば「転職後に年収が下がってもいい」という人も6割超。ビズリーチの南壮一郎社長は言う。

「いまや35歳転職限界説などはなく、何歳でもニーズはあるし、やりがいある仕事なら転職したい人も多い。求められているのは、自分の専門分野を掘り下げ、スキルや経験を積み、利益を生み出せるプロフェッショナルな人材。市場で通用するキャリアを主体的に形成しているかどうかが問われています」

AERA 2013年6月3日号