「それから、これは日本と一番違う所だと思うけれど、ハワイでは障害のある子どもがいると、通院やリハビリや学校の調整をするために、一家にひとり専属のソーシャルワーカーが付くんだよ。もうお母さんが自分で動きまわって大変な思いをする必要がなくなる。あなたに無料で優秀な秘書が付くんだよ」
■必要な支援を把握する
ソーシャルワーカーという言葉をその時に初めて知りました。
ワーカーを中心に、子どもたちの主治医や学校の担任やセラピストがカルテを共有するとは想像もできませんでしたが、本当にそんな画期的なシステムが存在するとしたら、どれだけ気持ちが楽になることか。どんなに調べても、日本では手に入らない情報ばかりでした。
1カ月かけて、ここに住む準備をしていこう。
翌週の月曜日から、いよいよプリスクールでの生活が始まりました。
入園するにあたり、事前に息子の発達状況を伝えるアセスメントシートを提出していたのですが、この書類は、できないことがあると断る日本の考え方とは真逆で、息子に必要な支援を把握するものでした。そしてアメリカのシステムに驚くたびに、ティナさんに教えてもらったインクルージョンという言葉を思い出しました。
■「それは障害ではない」
インクルージョンとは人種や宗教や障害などの属性によって排除しないという考え方であり、障害児と健常児が区別なく学ぶ環境をインクルーシブ教育というとのこと。
「スペシャルクラスに行くのは、もっと大きなケアが必要な場合です。コウはレギュラークラスで何の問題もない」
クラス分けに関し、日本では【歩ける】【歩けない】という身体的な側面も大きな判定基準となるのに対し、アメリカでは人的な支援やツールを使うことにより行動が可能になるなら、それは障害ではないと考えるのだと知りました。
身体が不自由な子どもたちも、いつか社会に出て働く日が来ます。学校は勉強だけでなく社会性も学ぶ場所であり、私はこの価値観の違いは子どもたちの将来に大きな影響を与えると感じています。
未来の大人が小さなうちから、社会で生活しやすい環境が整っていくことを切に願っています。
〇江利川ちひろ/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ
※AERAオンライン限定記事
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