エッセイスト 小島慶子
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時代の大きな転換点を迎え、デジタルネイティブの若者たちを見て、焦りを感じる大人たちも(撮影/写真部・高野楓菜)
時代の大きな転換点を迎え、デジタルネイティブの若者たちを見て、焦りを感じる大人たちも(撮影/写真部・高野楓菜)

 タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。

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 30代の大人が、10代の使う言葉で仲間に入ってこようとするのがちょっと困る。俺たちは30代の人に10代みたいに振る舞ってほしいとは思ってないし、自分たちと違う考えを知りたいのに」

 とぼやく大学1年の長男。オーストラリアでは18歳で一斉に大学に進学するわけではないので、キャンパスには20代半ば以上の学生がたくさんいます。18歳の長男も、さまざまな年齢の人たちと一緒に学んでいるのです。

「まあわかるけど、きっとその人も不安なんだよ。一緒に勉強できてうれしいんだと思うよ」

 私にはどっちの気持ちもわかる気がします。10代の頃は、若者ぶる大人を軽蔑していました。ちゃんと敬意を示して接してくれる、自分の世界を持っている大人が好きでした。一方で、もちろん大人の不安も理解できます。会社員だった頃、毎年春になると新人アナたちに好かれようと張り切るベテランアナたちのぎこちない振る舞いを目にしてきました。痛々しいけど、なんとか接点を持ちたいと思う気持ちには覚えがあります。

 最近はデジタルネイティブの若者世代に置いていかれまいと、大人たちが血眼で“イケてる若者”を探しては群がっています。やたらとZ世代解説をしたがる人も。でもそれは大人たちがトレンドと呼んでいる「多様性の時代」に逆行するやり方ではとも思います。多様性を尊ぶ世界では、自分と相手との違いに価値が生まれます。新しいものを知ったかぶるのではなく、素直に自己を開示して、違いに学ぶから豊かなんですよね。

 長男のぼやきも多分そういうことで、自分たちにはない経験や異なる視点の話を聞きたいのでしょう。若者に“追いつく”のでもマウンティングするのでもなく、考えをシェアすることに喜びを。対等な関係って、そういうことじゃないかなと思います。

小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』(日経BP社)が発売中

AERA 2021年5月3日-5月10日合併号

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小島慶子(こじま・けいこ)/エッセイスト。1972年生まれ。東京大学大学院情報学環客員研究員。近著に『幸せな結婚』(新潮社)。共著『足をどかしてくれませんか。』が発売中

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