おたふく風邪やインフルエンザなどほかの発熱を伴う感染症でも、感染した直後に精子が減少することがあるという。
「新型コロナウイルスの場合、別の原因として、サイトカインと呼ばれる、炎症を起こす生理活性物質の影響も考えられます。とくに重症患者では、サイトカインが大量に分泌されることが知られていて、イタリアの研究チームなどの分析でも精液中から高濃度のサイトカインが検出されています。また、ウイルス自体によって、精巣内の細胞がきちんと働かなくなる、精巣機能障害が起きているのかもしれません」
生殖能力のある精子は、精巣内の精細管と呼ばれる細長い管の中で、精子の元になる「精原細胞」が周りの細胞の助けを借りながら成熟して作られる。このプロセスで重要な精巣内の細胞の表面には、新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際に最初に結合するたんぱく質が存在するため、ウイルスに感染する可能性があるのだ。
■感染しないが一番
ただし、精液中からウイルスのRNAが見つかったという報告は1件しかなく、その後は見つからなかったという報告ばかりなので、精液を介して感染する可能性はほとんどないという。
新型コロナウイルスによって損なわれた男性の生殖能力は回復するのだろうか。木村講師はこう呼びかける。
「他の感染症でも時間が経てば回復することが多いので、新型コロナウイルスも回復する可能性はあると思いますが、まだよくわかっていません。精子への影響以外にも様々な後遺症が報告されていますので、感染しないようにするのが一番です」
(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
※AERA 2021年5月3日-5月10日合併号