終身雇用は崩れ、年金は当てにならない。65歳定年制の中で働くのなら、もっとやりがいのある仕事をしたい。アラフォー以上の世代が自分の可能性を求め、動き出した。
半年に一度、「履歴書」を更新する。食堂運営会社の西洋フード・コンパスグループで執行役員を務める前井利夫さん(49)は30代からこれを習慣づけている。更新のたびに、新しく書き込める成果はあるか、スキルや経験は増えたか、などを自らチェックする。社内だけでなく、社外でも通用する自分の「市場価値」を意識するためだ。
かといって前井さんは常に転職を考えていたわけではなかった。昨年5月まで23年間、大手外資系メーカー、ユニリーバに勤務。短いスパンで転職する人も多い外資系企業だが、前井さんは定年まで勤め上げることも考えていた。それなのに、40代後半になると漠然とした不安を感じた。
「これから先も慣れた環境ならラクかもしれない。でも本当にエネルギーを仕事に注ぎ切ることができるのだろうか」
あえて初めての環境に身を置くことで、自分がどう成長するか試したくなった。安定したポジションを捨てることに迷いがなかったわけではないが、胸の「うずき」を無視できなくなった。転職支援会社に登録すると、いくつもの誘いがあった。意識してきた自分の「市場価値」が通用するとの確信に変わった。
その中から転職先に選んだ今の会社は、待遇が一番良かったわけではない。「最も新しい仕事」ができることに重点を置いた。ユニリーバに比べれば知名度も低い。だが、財務に加え、法務や広報、経営企画やIT分野も任された。組織全体を自分で見られるのが最大の魅力だった。
前井さん自身の働き方も変わった。午後6時には退社し、読書や友人と会う時間に使う。仕事以外の時間を充実させて、仕事も私生活も相乗効果を上げる。常に会社のパソコンを持ち歩き、仕事漬けだった前職とは一変した。仕事一辺倒では破綻すると感じながらも、同じ職場ではできなかった「キャラ変え」にも成功できたという。
「長く意欲をもって働き続けるために、仕事内容にも働き方にも変化をつける。これからの時代はこれが当然ではないでしょうか」
※AERA 2013年6月3日号