年間の手術数は、甲状腺がんを含む甲状腺疾患全体では約1800件に達しており、外来でスピーディーに対応しても、手術は「2~3カ月待ち」が続いている。ただ、甲状腺がんの多くは乳頭がんであり、「待てるがん」である。

「甲状腺がんの中には、未分化がんなど、急速に進むために手術を急ぐ必要があるタイプもありますから、迅速で的確な診断が非常に重要です。しかし、乳頭がんであることが確定すれば、手術を“待って”も大丈夫であることをきちんと説明し、納得していただいています。妊娠中に甲状腺乳頭がんが見つかった患者さんには、一般的には出産後、体調を整えてからでも大丈夫です、とお伝えしています」

 甲状腺がん手術数が5年ぶりに全国1位となった隈病院だが、その背景を宮医師は次のように見ている。

「当院は、ただ診察して、手術して、お薬を出して……ではなく、日々の診療から得られたデータを解析し、フィードバックして、『次』に生かすことで、より質の高い医療の提供をめざしており、それが多くの患者さんや紹介してくださる先生方に評価されたのではないでしょうか」

「データの解析・フィードバック」の具体例として、手術を含む豊富な治療例を生かした大規模な臨床研究の結果を、専門誌に論文発表したうえで日常診療にとり入れていることが挙げられる。

 その一つが、1993年から始めた「微小がんなら手術よりも経過観察を推奨」である。この場合の微小がんは、甲状腺がんの約90%を占め、ゆっくりと進行することがわかっている乳頭がんというタイプの最大径1センチ以下のがんのことである。

 同院での2500件以上の症例データから、微小がんなら、「手術せずに経過観察しても9割以上は増大・進行しない」「経過を見てがんが少し大きくなってから手術しても、最初の時点で手術しても、甲状腺がんで死亡したケースはなかった」などが明らかになったからである。『甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018』にも、大きさが1センチ以下で転移のない「超低リスク」では、手術をしない「経過観察」も選択肢の一つと明記された。

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